調べ物の成果が上がったら、速やかに連絡を取り合うことを確認して、夕刻、一同は解散した。

「ひーちゃん」

「ん? 何? 京一」

「………………龍麻」

「……京一?」

──寮へと帰って行った二人を玄関先で見送り、リビングへ戻って直ぐさま。

京一は片割れを呼び、その腕の中に強く抱いた。

「……どうしたんだよ、京一」

何処となく、切羽詰まっている風に抱き締めて来た彼の様子に、龍麻は戸惑う。

「龍麻、御免な……」

「夕べのこと、未だ気にしてるんだ? ……もう、怒ってないよ。心底反省したみたいだし、葉佩君も皆守君も、水に流してくれたし、二度と、あんなことしないって、京一誓ってくれただろう?」

「それは、俺の中でも片付いた。……でも、お前の科白じゃねえけど、本当に、何年経っても俺はお前のこと泣かせっ放しで、辛い想いばっかさせてて、お前の気持ち、これっぽっちも顧みてやれねえ馬鹿だってのは、どうしたって消えない。………………悪いと思ってる。すまないとも思ってる。何とかしたいって、俺自身思ってる。……御免な、龍麻。御免………」

「…………京一? ホントに、どうしちゃったんだよ。何か変だよ? もう、済んだことじゃないか。京一の中でだって、片付いたことなんだろう? 京一が、そんな声絞らなくったって……」

「俺にだって色々、思う処ってのがあんだよ。……あの頃もそうだったし、今だって、俺は、お前の泣き顔なんか見たくない。お前にあんな顔されっと、どうしようもなく胸が痛くなる。どうしたらいいか判らなくなる。お前に、辛い想いなんかさせたくなくて、泣かせたくもなくて、お前は俺の絶対で。なのに俺は、どうしようもない馬鹿で、お前のこと泣かせてばっかでさ」

「京一…………」

「……でも。でもな、龍麻。俺だって、その内ちゃんと、知恵の一つも付けっからさ。今よりももっと、考えるから。……悪い。もう少しだけ、待っててくれな」

「え、待つって、何……──。……ちょ、京一? 寝なくていいんだ? 徹夜なんだろう? 寝てないんだろう? だから、謎なこと言い出してるんじゃ……」

「平気だっての。……いいんだよ、今はこうしてたいんだから」

腕の中で、龍麻が戸惑いだけを見せるのも構わず、京一は、彼の耳許で低く言い募り、背を掻き毟る風にしながらキスをして、耳朶を食み、首筋を舌で辿った。

「でも…………」

「聞けない」

「…………じゃあ、せめてベッド……」

「待てない」

行為を仕掛けられても、龍麻は、京一の寝不足と疲れを慮って、尻込んでみせたが。

何処までも甘く、低く、今この場でお前が欲しいと囁かれ、観念し、想い人の首に縋り付きながら、そっと、双眸を閉ざした。

「龍麻…………」

絡んで来た腕を取り、優しく支えながら床へと横たえ、性急に、京一は龍麻の服を暴く。

「……なあ?」

「ん?」

「お前と、こんな風に抱き合うのって、実は結構久し振りじゃねえ?」

「…………ああ、そうかも。色々、怒濤だったもんね、ここのトコ」

「だよな。──今夜は気が済むまで、ずーっとお前とこうしてたい。……いいよな?」

「……うん」

急く風に暴いた肌の上に唇を寄せ、幾つもの痕を散らしながら、龍麻の漆黒色の髪撫でつつ京一はねだり、クスリと笑んで、龍麻はそれを受け入れ。

「でも、手加減宜しく。明日はちゃんと、仕事行かなきゃ」

「手加減? …………出来たらな。つか、理性が残ってたらな」

「えっ。京一、何言って……っ。──あ……っ……」

お許しを頂いたからにはと、京一は、龍麻の背を、冷たい床の上に押し付けた。

「冷たいって……」

「今だけだろ。直ぐに、気にならなくなる」

「だけ、ど……っ。……んっっ…………」

背より這い上がる冷たさに、ふるりと震えて足掻いた彼の下着の中に手を差し込み、擡げ始めていモノを握り込み。

「余計なこと気にする余裕なんか、なくしてやるよ」

指先の蠢きに合わせて少しずつ張り詰めて行くモノを弄びつつ、京一は、龍麻の頤を撫で上げながら、愛おし気にキスをした。

「……きょ、いち……?」

「…………ん?」

唇を舐め上げ、存分に舌を絡め取って、吐息と糸を引きながら離れていった京一の口許をぼんやり眺めながら、龍麻は微か、不思議そうに目を細めた。

「あの、さ……」

「何だよ。どうかしたか? それとも、この程度じゃ余裕なんかなくせないか?」

「そ、じゃなくて……。何か……遭った……?」

「あ? いいや、別に? どうしてそんなこと訊くんだ?」

「だって……。その、何て言うか………………うから……」

「……龍麻? 今、何つった?」

「だから……、何時もと一寸、違うって言うか…………」

「気の所為じゃねえ? ──……それよりも、たーつまー? 躰の方は正直に感じてるくせに、随分と余裕なことほざいてやがるじゃえねか」

快楽に全てを委ね始めた、潤んだ瞳でこちらを見詰めながら、訝し気な口調で問うて来た龍麻を、京一は、意地悪く笑って見下ろす。

「だ、だって、それは……」

「お前がそんなに余裕かましてやがるんなら、ぜーったいに、手加減なんかしてやらねえからな。明日も、バイトにゃ行けねえと思え?」

「えっ? 嘘、それは駄目っ。駄目だってば、京一っ! そういう訳にはーーーっ!」

「うるさい。お前が悪い。御免なさいって、泣いて詫びるまで、ぜーーってぇ許してやんねえ」

「冗談っ! 第一、何でそういう話になるんだよ、馬鹿京…………。んんっ……」

──何故、後は堕ちて行くだけの快楽の淵から這い上がってまで、龍麻がそんなことを言い出したのか、京一にも心当たりはあったけれど。

その心当たりは、京一の中でも、いまだ『確信』ではなかったから、根性曲がりな科白ばかりを敢えて並べ立て、再度、『淵』へと堕とす為の蠢きとキスを与えながら。

「龍麻……。龍麻。龍麻…………」

京一は彼の耳許で、幾度も幾度も、彼の名だけを囁き続けた。