午後四時三十分──マミーズ裏手
「んーーー。正しく、国際的テロリスト集団、って感じ?」
「感心してる場合じゃねえだろ、ひーちゃん」
「確かに。……さーーーて。どうしよっか、京一」
「やることなんざ、一つだな。やり合うだけだ。ま、命までは取らねえでおいてやってもいいけど、最悪は……な」
上空で湧いた爆音に、見張っていた墓地より一旦離れ、マミーズ裏手まで忍んで来ていた龍麻と京一は、校庭へと降りて行ったヘリ達を見送り、ぼそぼそ、建物の陰に隠れて囁き合っていた。
「それに関しては、俺もそのつもりだけど……、遺跡の方も目が離せないし、あっちはあっちで、目、離したくないんだよね。物騒なんてもんじゃない連中みたいだからさ。生徒達にだって、何するか判らないだろう?」
「けど、俺等が別行動ってのは、得策じゃないぜ? ここで分かれたら、合流出来なくなるかも知んねえ」
「そうだね。それは一寸、後々……」
「九龍や甲太郎も、こっち来る気配ねえしな。甲太郎の電話は、話し中で繋がらねえし」
「その辺は、校舎の中にいるようなら、って瑞麗女士が言ってくれたから、まあ、ということにしようよ。あの二人だから何とかするよ」
「……だな。ま、なるようになんだろ。──それよりも、ひーちゃん。時間が勿体ねえ。様子見がてらマミーズん中抜けて、連中の偵察と行こうぜ。遺跡の方は、それからでも遅くねえよ。勘って奴だがな」
「ん、賛成。京一の勘、信じとく」
身を屈め、周囲の気配を窺いながら、一先ずどうするかを決めた二人は、裏口よりそろっと、マミーズの中に忍び込む。
「ひゃあああっ! …………あ、あ? あああ、蓬莱寺さんに緋勇さんっ! 脅かさないで下さいよぉぉっ!」
「あーーー、警備員しゃんっ」
表の騒ぎの所為で動きが止まってしまっている厨房を抜け、従業員通路から、そっとフロアーに出てみれば、そこには、放課後のひと時をマミーズで過ごそうとしていた生徒達の一団が、団子のように隅に固まっており、その中には、ウェイトレスの奈々子と、肥後の姿もあった。
「悪りぃ、脅かすつもりはなかったんだけどよ。奈々子ちゃんに、肥後……だよな? お前等は無事みたいだな」
「皆、何処かに隠れた方が……、とは言っても、さて、何処に行くのが一番安全かな……」
「それよりも! あれ! ななな何なんですか、あれーっ! 映画の撮影とか、何かのイベントとか、そんなオチだと嬉しいんですけどっ!」
「さっき、神鳳君から電話を貰ったんでしゅ。テロリストがこの学園を狙ってるみたいだから、元とは言え、《執行委員》として学園を守る為に手を貸して下さいって言われたんでしゅ。阿門君──《生徒会長》がそう言ってるって。だから僕は、ここで皆のことを守りましゅっ!」
「私だって、ここ守りますよ! マミーズは私の職場ですーっ!」
脅かすな! と悲鳴を上げて、ブーブー言って来た二人へ軽い詫びを告げながら、京一と龍麻は、何処かへ避難しろと促したのに、肥後も奈々子も、この場で生徒達を守ると言って聞かず。
「けどよ、お前等だけじゃ……」
「そうだね、二人だけじゃ……」
「──大丈夫ですよ」
気持ちは判るが……、と青年二人が渋い顔をした時、すっと背後に立った影が、落ち着いた声で言った。
「……あんた、か」
「ああ、バーの」
「蓬莱寺さんに、緋勇さん……でしたね? ここには私もおりますから、お気遣いなく。坊ちゃまは、事態を把握為さっておられているようですし、お考えもあるのでしょう」
影と声の主は、千貫だった。
予てより、只者ではなさそうだ、と踏んでいた彼の登場に、京一と龍麻は視線を合わせて頷き合って。
「…………そうだな。あんたがいるってなら。じゃあ、ここは任せた。俺達には、ちいっとすることがあるんでね」
「それじゃあ。皆、気を付けて。千貫さん、後お願いします」
「お二人こそ、お気を付けて」
「マミーズは、私達が守りますからっ!」
「気を付けて下さしゃいねっ。僕達も、頑張りましゅっ」
じゃあ、と告げ合い、三人の声を背に聞きながら、正面入口より、青年達はマミーズを飛び出して行った。
同時刻──天香学園校舎屋上
「応っ! 魂の井戸で! じゃあ、後でな、甲ちゃん! ──明日香ちゃん、行こうっ!」
「うんっ!」
慌ただしく甲太郎と連絡を取り、ぷちりと切った携帯を明日香へ返すと、ひょいっと柵の向こうに首から上だけを覗かせ、着陸したヘリから、バラバラと、レリック・ドーンの私設軍の隊員達が散開し始めるのを確かめて、今なら未だ間に合う! と明日香の手を引き、九龍は屋上より飛び出した。
「あっ、そうだ! 九チャン、図書室寄って、図書室! 月魅がいるかも知れないっ!」
「お。ラジャー!」
何処に行くにしても、図書室に月魅がいるかどうか、確かめてからにしてくれ、との明日香の求めに応じ、ダダっと足音高く階段を駆け下り、二階渡り廊下を駆け抜け、図書室前の廊下に飛び込めば。
「あっ、九龍さんっ、八千穂さんっ!」
「おお、師匠!」
「月魅ちゃん、無事っ!? って、あ、剣介! 剣介一緒だったんだ、良かったー……」
避難しようとしていたらしい月魅と真理野の二人と、九龍はばったり行き会えた。
「はっちゃん? それに、皆も」
「九サマ! ご無事でしたんですのね?」
二人の無事を知り、ホッと九龍が息付いた時、今度は音楽室と理科室から、それぞれ、取手とリカが顔を覗かせ、彼等に合流する。
「鎌治にリカちゃんも、残ってたんだ」
「うん。どうしようかと思ったんだけど、神鳳君から連絡を貰って……」
「リカはぁ、咲重お姉様から連絡を頂きましたですの。本当に悪い人達が乗り込んで来るから、バァンってやってしまってもいいって言われましたですの」
「何だ、お主達もか。拙者も、神鳳殿に、悪人共の成敗を託された」
「…………成程。《生徒会》は《生徒会》で、動いてるってことか。ってことはー……」
偶然行き会えた彼等より、《生徒会》もこの騒動の対処を始めていると知り、ふーん、と九龍は思案を始め。
『全校生徒及び教職員に告ぐ。この学園は、《秘宝の夜明け
その時、校内放送が学園中に鳴り響いた。
「レリックの野郎共めー…………」
「しゃ、射殺っ!? 九チャン、射殺って……」
物騒且つ高圧的な放送に、九龍は憤り、明日香は息を飲み。
「鎌治、リカちゃん、剣介。明日香ちゃんと月魅ちゃんのこと頼むな! 気を付けて! 連中とぶつかっても、大人しく捕まっとけば大丈夫だから! 何か困ったことあったら、帝等か甲ちゃんに連絡付けて!」
「九チャン、何処行くのっ!?」
「《墓》! あいつ等の狙いはあそこだから!」
引き止めようとした明日香の腕をすり抜けて、九龍は墓地を目指し、再び駆け出した。