「何……?」

「ガキなんか苛めたって、楽しくねえだろ? 俺達が相手してやるよ。掛かって来な、下衆野郎共っ!」

「俺達とやり合う気なら、死ぬ覚悟決めなよ。あんた達みたいなのに手加減する気、一切失せたからさ」

──飛び出し、繰り出した技で兵達を薙ぎ倒したのは、京一と龍麻だった。

騒ぎが起こり始めたのに気付き、駆け付けたものの、男性教師が撃たれるのを防げなかった二人は、ギリッ……と奥歯を噛み締め、鋭い光を宿した瞳で兵達を見回しながら、厳しい声で言い放つ。

「……笑わせる。貴様等、素手や剣で、ライフルとやり合う気か? 正気の沙汰ではないな」

しかし、兵の一人は彼等を鼻で笑い、トリガーに指を掛け直した。

「正気の沙汰じゃねえのは、てめえ等だ。──うらぁぁっ! 剣掌! 鬼剄っ!」

「後悔は、あの世でしたって遅過ぎるよ。──八雲っ!」

だが、それが引き切られる前に、京一の剣から、そして龍麻の拳から、再び技は放たれ。

「……手応え無さ過ぎだな」

「ホント。……この、怒りの遣り場は何処に…………」

「ったくよ……。……って、いけね。そのセンコー、ルイちゃんトコ運ばねえとな」

「ああああ、そうだった!」

命こそ奪わぬ代わりに瀕死にまで追い込んでやった、六名程の兵士達を一瞥し、彼等は、倒れたままの教師へと駆け寄る。

「どう?」

「息はある……な。でも、ヤベぇかも」

膝折って確かめた、撃たれた彼の容態は決して良いとは言えず、龍麻は結跏趺坐で、京一は活剄で、少しでも彼を癒そうと、右手に氣を集め始めた。

「く…………そ……っ」

「え? ……京一、危ないっ!」

────だから。

治癒を行う為に、彼等は意識を傾け過ぎてしまい、倒した兵の一人が、地に伏せたまま、ハンドガンをホルダーより抜き構えたのに、気付くのが遅れた。

カチリ……、と微かに起こった、セーフティーを外す音に龍麻が振り返った時には、ハンドガンの銃口は京一の背に定められていて、彼は咄嗟に、傍らの体を突き飛ばした。

「な……。──ひーちゃんっ!?」

押され、煉瓦で背を強かに打って、京一はやっと、龍麻が己を庇ったことと、向けられた銃口の存在を知り。

「龍麻っ!!」

彼の名を叫びながら京一が跳ね起きた刹那、ダンッ! と、重い銃声が響いた。

「あ、れ…………?」

「龍麻っっ! 龍────。……え…………?」

覚悟を決め、ギュッと龍麻は目を瞑り、龍麻が撃たれた! と京一は、彼へ両手を差し伸べたが。

銃弾に貫かれたのは、兵士の方だった。

「何で……?」

「誰だっ!?」

故に、え? と二人は瞳を見開き振り返り。

「ご無事ですか?」

「ここは、我々が引き受けますので」

「え……? ええええええええっ?」

「どうして…………?」

兵達の向こう側に立って、ハンドガン片手に声掛けて来た男達の姿に、龍麻の声も、京一の声も裏返る。

銃をも持ち、彼等の窮地を救ったのは、この三ヶ月、共に働いて来た、同僚や先輩だった筈の警備員達だった。

「今まで隠していて申し訳ありません。我々は、社長──御門清明様の警護が本当の仕事なんです」

「天香に潜り込むお二人の護衛をするようにと、社長から命じられておりまして」

隙なく銃を構えたまま、二人の傍らに寄って来た男達は、口々に事情を語りながら素性を明かし。

「御門…………。有り難いけどさ……」

「そういうことは、先に言えってんだよ、あの野郎……。──でも、助かった。ありがとな」

「うん。一瞬、駄目かと思ったから……。……本当に、有り難う」

苦笑を浮かべつつも礼を告げ、ならば後は任せたと、彼等は、遺跡へと走り出しはしたが。

「………………ひーちゃん」

「何? 京一」

「この……馬鹿野郎がっ!! 俺の寿命、縮めてんじゃねえよっ!」

正体は御門の配下だった男達の姿が見えなくなった所で、京一は立ち止まり、中央歩道の直中であることも気にせず、置かれている状況も忘れ、大声で龍麻を怒鳴り飛ばすと、渾身の力で彼を抱き竦めた。

「…………御免……」

「詫びるのは、俺の方だろうが……。……龍麻…………。良かった……。龍麻……龍麻…………っ」

「……何ともなかったからさ。俺は、大丈夫だから……」

痛い程に抱き締めて来た彼へ、誤摩化す風に曖昧に龍麻が笑めば、京一が絞り出す声は、酷く歪み。

そっと、京一の背に腕を廻した龍麻は、肩口に頬を寄せた。

「御免な……。もう、お前から気ぃ逸らすような真似はしねえから……」

「うん。俺も、もっと気を付けるようにするから。──さ、行こう、京一」

そうすれば、安堵と悔恨が京一からは洩れ。

ポン、と励ます風に龍麻は彼の背を叩き、遺跡へ行こう、と俯き加減だった面を上げた。

「……ああ。────龍麻」

今は、《遺跡》へ、との促しに京一も顔を上げ……でも。

彼は、龍麻を腕より離す直前、どうしても、と言う風に、深く短いキスをした。

「京一?」

「…………もう、さっきみてぇな想い、二度とお前にゃさせねえって、約束代わりだ」

何で、今ここでキスなんか、と、龍麻は首を傾げたけれど。

常通りの不敵な表情を拵え、ウィンク一つして、京一はするりと理由わけを告げ、龍麻の手首を掴んだ。