「あーーーーっ! やーーーっと、追い付いたぁぁぁ…………」

「……生き……てはいる、のか。追い剥ぎにあった如くだな……」

──流れた、五年の歳月と、少々の『立ち話』の所為で、青年達が足を止めてしまっていたそこへ、九龍と甲太郎が追い付いた。

ひたすらに駆けて来たのだろう、九龍の息は上がっていて、甲太郎は、扉を開けた直ぐそこに折り重なりつつ倒れていた兵達を見下ろし、残してやったのは、下着だけかと苦笑する。

「お、来たか、お前等」

「二人共、大丈夫だった?」

「無事のようだね、君達も」

「お陰様で、無事ですっ! 処で、あの扉の手前にいても聞こえたんですけど。クイタンありの、ご祝儀無しの赤なしで、チョンボは全部見逃しの、且つオール東風戦って、何と言うか、な麻雀、誰がするんですか?」

「ひーちゃん。凄ぇルールだろ?」

「うるさいなー…………。いいだろ、別にーっ!」

「有り得ない以前だな。せめて、チョンボ見逃しなしの、半荘勝負だろ」

「………………お前等、麻雀出来んのか?」

「出来ますよー、人並み程度ですけど」

「一応。あんなもの、ルールと役と符計算さえ覚えちまえば、出来る」

「何だ、出来んのか。じゃあ、お前等が冬休みになったら、麻雀やんぞ、麻雀!」

「……となると、七人か。一人足りないな。劉も捕まえるとしようか」

ひょいひょいと、兵達の山を踏み越えやって来た少年達を、青年達が案じれば、休息が欲しかったのか、少年達は、扉を隔てた通路にまで聞こえた青年達の馬鹿話を蒸し返し。

「こ、高校生がいるからさ。賭けるのは止めよう……?」

九龍や甲太郎の方が、自分よりも麻雀が強い気がする! と龍麻は、急に逃げ腰になった。

「あんなん、賭けなきゃ面白くも何ともねえだろうが。……テンゴでどうだ?」

「えええええー……。せめて、テンサン?」

「俺、テンピンでもいいですよー? ふっふっふーーー!」

「テンピンでもデカピンでもいいが、いい加減、麻雀の話は止めないか?」

「……皆守君が、一番建設的だな…………」

金を賭けるのは嫌だと龍麻が言い出した為、彼等の麻雀話は少しばかりヒートアップし、馬鹿が三人いる、と甲太郎と如月は頭を抱え。

「お、そうだった。──えーーと。先、進めます? 向こうのあの扉、開きますか?」

「あ。悪りぃ、未だ試してねえ」

「じゃあ、俺、罠がないかどうか、調べて来ます。一寸待ってて下さい」

「葉佩君、僕も一緒に行こう」

休憩お終い! と九龍は、護衛代わりに付いて行くと言った如月と一緒に、奥へと続く扉へ駆けて行った。

「甲太郎。この先にも、『いる』。レリックの相手は俺達がする。よっぽどのことでもねえ限り、お前達は手ぇ出すな。その代わり、化人は任せる」

「……判った。──ここは、俺の……だ。万が一、喪部がここを解放するようなことがあったとしても、阿門が立ちはだかる場所が、何処かに必ずある筈だから、多分、それ程は焦らなくていいと思う」

「あ、この区画が、遺跡の最深部じゃないんだ?」

「それは、俺にも判らない。この先の化人創成の間には、別の区画に続く扉はないんだ。だから、『底』は『底』なんだろうが、大広間の扉は未だもう一つあるし、思わせ振りな石舞台も気になる」

「…………ま、この奥が終点だとしても、ラスボスが副会長ってこたぁねえだろ。生徒会長がいるんだから。っつーことで、その辺の考慮は一旦忘れて、鬼退治だけに専念するとしようぜ、ひーちゃん」

「そうだね。……皆守君、ここが、君の……なら、色々の事情が絡んでくるかも知れないからさ。無理しちゃ駄目だよ?」

九龍が離れた隙に、甲太郎は小声でそっと、『裏事情』を京一と龍麻に告げ、青年達は、無理はするなと念を押しつつ、甲太郎の顔色を窺い、彼が頷くのを確かめてから。

「大丈夫そうです、行けまーす!」

確認終了の声を上げた九龍と如月の方へ、歩き出した。

「ふーん……。『黄泉の墓室』かあ……」

距離を取っていた九龍の傍に三人が寄ったら、ぽつり、抜けようとしているその扉に掲げられている神代文字のプレートを、宝探し屋の彼が読み上げた。

「黄泉の墓室……。あの世のお墓……ってこと?」

「多分、そういう意味なんでしょうね。この部屋の入口には、『多遅摩毛理タヂマモリの玄室』って書いてありましたから、この区画は多分、あの世とこの世の話に関する場所なんじゃないかなー、と」

「タヂマモリ? 誰だ?」

「うーーと。簡単に言うと、むかーーーしむかし、その頃の天皇陛下に、常世の国に行って、非時香果ときじくのかくのこのみっていう、不老不死になる実を採って来ーい、って言われた人ですよ、京一さん。非時香果ってのは、今で言う橘のことだって言われてますけど、真相はどうだか。非時香果であるタチバナは、本当は、橘って書いちゃ駄目だって説もあるみたいですしね」

「ふーーん……。あの世の蜜柑食って、不老不死、なあ……」

「……京一。橘は、蜜柑じゃない。それにあれは、生食用には向かない」

「似たようなもんなんだろ、京一さんの中では」

「それにしても……、常世に行ったって言う多遅摩毛理の玄室に、黄泉の墓室、かあ……。入口の方には、豊世の滝だの、海坂だのってあったから、この区画が終わった先は、『この遺跡の中のあの世』ってことかなー」

「海坂? 海に、坂があんのか?」

「…………京一さん、そうじゃない。海坂ってのは、地上の世界と海中の世界の境界線のことだ。海中の世界ってのは、常世──要するに、あの世。黄泉比良坂の、別バージョンとでも思っとけばいいんじゃないか?」

「よく判んねえなあ、日本神話ってのも。あの世とこの世の境が何だっつーんだ。死んだら人間なんか終わりじゃねえかよ、あの世だの、有り得もしない不老不死だのに思い入れて何になんだよ、馬鹿馬鹿しい。時間の無駄だ。人ってな、寿命まで、きっちり精一杯生きるからいいんだぞ。あの世のことなんか考えたって、意味ねえ。今を生きろ、今を」

「……相変わらず、潔い科白ですなー」

「えーーーと、さ。取り敢えず、先、進まない? 京一に、神話の話しても無駄だし」

この区画の意味する処に、九龍が引っ掛かった所為で、又、一同は暫し話し込んでしまい。

埒が明かない、と苦笑し、龍麻はさっさと、扉に手を掛けた。

「行くよ?」

「おう。何時でもいいぜ、ひーちゃん」

「ああ、大丈夫だ」

「あ、俺達、どうしましょ?」

「取り敢えずは、引っ込んでろ、九ちゃん」

──そうして、その扉も開かれ。