轟いた音を、彼等は一斉に振り返った。
「本当に、君は無能だ」
一同が振り返ったそこには、拳銃を構えた喪部が立っていた。
「お、前…………っ」
掠れた煙を吐く銃口は、真っ直ぐマッケンゼンへと向けられたままで、一発の銃弾に貫かれたマッケンゼンは、撃たれた腹を庇いつつ、ゆっくり、その場に膝を付いてゆく。
「喪部……。どうして……? こいつは、お前の仲間なんだろっ!?」
「僕は、品のない奴が嫌いでね。今回、支援部隊の指揮をそいつが執ると知って、始末する機会をずっと窺っていたのさ」
何故、仲間を撃ったのかと、唖然と問う九龍に、さらりと喪部は答えた。
「始末って…………」
「モノベ……、裏切るつもりか……?」
「裏切る? 止してくれよ。僕には初めから、君達レリック・ドーンに服従するつもりなんかない。僕が興味があるのは、レリック・ドーンが持つ情報ネットワークと、総統であるシュミット老人の、莫大な遺産だけさ。……あの爺さん、もう引退し頃だとは思わないか?」
「何、だと……?」
「いなくなる君の席には、僕が座らせて貰う。その為のこの先は、これからゆっくり考えるさ」
「そんなことさせるかっ!! そんなことをぉぉ────」
「……ふん」
九龍へは視線を流さず、唯、呆然と見詰めて来るマッケンゼンだけに瞳を向け、喪部は再び、銃の引き金を引いた。
「喪部っ!!」
「か、は……っ…………」
──二発目の銃弾は、マッケンゼンの胸を貫いた。
小さく、血混じりの息を吐いて、彼は。
「俺、は……。……死にたく、な…………──」
静かに絶命した。
「全く……。ここへ乗り込んだ目的は、《秘宝》なのに。黄龍なんかの相手をするからこうなる。今生の黄龍を手に入れるのは、今でなくても出来ると気付かない辺り、本当に無能だったな」
火を吹いた銃を隙なく構えたまま、喪部は、チロリと龍麻に眼差しを流し、微かにニヤリと笑うと、そのまま、後退する。
「喪部……。お、前…………っ!!」
「何か、言いたいことでもあるのかい? ロゼッタの犬。──それじゃ、僕は失礼するよ。《秘宝》を手に入れなくてはならないからね」
倒れ、骸と化した男を眺め、軽蔑の声を出す彼に、カッと、九龍は怒りで頬を染め、思わず銃を構えたが、九龍へも、侮蔑の眼差しを送ると、素早く、喪部は背に負っていた扉の向こうへと消えた。
「待てよっ! この……っ! 喪部っ! 待てっつってんだろ、馬鹿ーーーっ!! ──って、あああああっ!! あのヤローーーーーっ!!」
滑るように彼が潜って行った扉に駆け寄り、張り付き、九龍はそこを開こうとしたけれども、何をされたのか、扉はびくともしなかった。
「九ちゃん? 開かないのか?」
「うんっ。ぜんっぜん、言うこと聞かないっ。何しやがった、喪部の奴ーーーっ!! ……くっそ…………。……許さないっ。ぜーーーったい許さない、あんな奴っ!」
固く閉ざされてしまった扉を両手の拳で何度も叩き、盛大に怒鳴り散らしながら甲太郎へと振り返り様、九龍は、ちら……っと、マッケンゼンの骸へ視線を流して、血が滲む程、唇を噛み締める。
「そりゃ、さ……。そりゃ、そいつだって酷い奴だったって、俺にだって判ってるけどさ……。別に、同情とかしてる訳じゃないけどさ……。そいつは仲間だと思ってた喪部に殺されるなんて……本当にちょっぴりだけだけど、哀れかな、とかは思うじゃんか……。死にたくないって……言ったし…………」
「……かも、な」
噛み締めた唇を、んーー、と引き結んで俯いてしまった九龍の髪を、ポン、と慰めるように甲太郎は撫でた。
「……甲ちゃん。悔しーーーーっ!! すんごい悔しーーっ!!」
「…………判ったから。お前が叫びたい気持ちも判らないじゃないから。今は、あの扉の先に進むことだけ、考えろ」
「………………あ、うん。そうだった……」
両手を握り締め、泣きそうな声で叫び続ける彼を甲太郎は叱咤し、ああ、落ち込んでる場合じゃない、と九龍は扉へ向き直る。
「……開きそうか?」
「パッと見、駄目っぽいですね。多分、普通の方法じゃ開かないと思います。あいつが先に進めてたってことは、ここに鍵が掛かってたとしても、一旦それは解除された筈で、ここの作りから言って、向こうから正規の鍵は掛からない筈ですし、一度開けられた鍵が、もう一遍掛け直された試しもないですし」
パンパン、と自分で自分の頬を何度か叩いて、扉を調べ始めた九龍に、黙って成り行きを見守っていた京一は静かに声を掛け、このままでは無理だと、九龍は首を横に振った。
「そうか。なら、壊すまでだな」
「……だね」
喪部がどんなことを扉に施したのか、それは判らないが、このままではそこが開かれることがないなら、方法は一つ、壊すだけ、と。
京一と龍麻は呆気無く言って、扉そのもの、ではなく、扉脇の岩肌目掛け。
「はぁぁぁっ!!」
「うらぁぁっ!!」
それぞれ、充分以上の気合いが込められた、八雲と剣掌・鬼剄を放った。
「ふん。ちょろいぜ」
「あいつ等の持ってた爆薬で破れる強度だったもんね、天井。俺達なら、楽勝」
球形を取った、大きな氣塊を一度に二つ浴びせ掛けられた壁は、ガラガラと音を立てて崩れ、ぽっかりと、人一人が通れる以上の穴を空けた。
「…………あの様子では、あの二人も、頭の中は煮えているな」
はんっ、と崩れ落ちた岩肌を眺める京一と龍麻の風情に、やれやれ、と如月は首を振る。
「そうなんですか? 兄さん達も?」
「ああ。多分、二人共怒っているんだろう。先程の彼に対してね。彼のしたことの、何に一番怒っているのかまでは判らないが」
「まあ……京一さんと龍麻さんも、九ちゃんと似たようなタイプだからな……」
京一も龍麻も、実は喪部に腹を立てているらしい、と如月に聞かされ、あー……、と頷きながらも、九龍と甲太郎は顔を見合わせた。
「自業自得だがね、あの彼の。僕も、気分は悪い」
彼等を怒らせたらどういうことになるか、と喪部のこの後の運命を思い、が、同情の余地は欠片も無いと、如月もさらり、言い。
「おーい、如月」
「一寸、こっち来て」
そんな彼を、穴の向こう側を覗いていた京一と龍麻は手招いて、ボソボソ何やら打ち合わせ、二言、三言だけ言葉を交わすと、何だろう、と訝しんでいた少年達をも呼び寄せ、彼等は穴を潜った。