東京魔人學園伝奇+九龍妖魔學園紀 捏造未来編

『魂の還る場所』

二十一世紀にもなった今この時より遡ること、一四〇年以上も昔の幕末に生まれ育って、が、数奇過ぎる運命を辿った果て、生き馬の目を抜く現代社会にて『余生』を過ごすこととなった蓬莱寺京梧と緋勇龍斗の二人が、各々の子孫に当たる蓬莱寺京一と緋勇龍麻の二人と、京一と龍麻の弟分に当たる皆守甲太郎と葉佩九龍という、四名の若者よりの『盛大なお節介』によって、新宿区西新宿の片隅に仮の住まいを持ってから──正しくは持たされてから──、約一月の時が流れた。

──東京では、躑躅の花が満開になり、所謂、ゴールデンウィークを迎えた頃。

京一は、つい先日まで見たことも聞いたこともなかった法神流の奥義の一つを『馬鹿シショー』から掠め盗るという『下心』の為、龍麻は、現代には伝わっていないと判明した陽の古武道の奥義の幾つかを『先祖』に伝えて貰うという『下心』の為──との建前を振り翳して、本来ならばこの時期、疾っくに、様々な理由の所為で一時帰国をしただけの祖国を離れていた筈の彼等は、どうにも心配で心配で仕方無い、どうしたって現代社会に馴染むつもりがないらしい京梧と、現代社会初心者な龍斗の世話を焼くべく日本に居残っていて、この約一月、なんんだと先祖の仮住まいに顔を出していたから。

その日、京梧と龍斗の二人に呼び出されたのは、又、何か判らないことがあるから教えて欲しいとか言った、何時ものことだろうと考え、暢気に、自分達の仮住まいより徒歩十分程の所に位置する、通い慣れたそこを訪れた。

ひょっとしてひょっとすると、最近、電話の使い方を覚えた龍斗が、まるで小さな子供のように、意味無く電話を掛けたがっただけなのかも知れない、とすら思いながら。

……京梧と龍斗の住まいに引かれた電話回線に繋がれているのは、京一や龍麻も、それまでは話にしか聞いたことのなかった、昔懐かし過ぎるダイヤル式の黒電話で、初めてそれを見た日、一体何処からこんな骨董品を見付けて来たのだろう……、と二人揃って思わず呟いたくらいアナログな品なので、龍斗が、電話の掛け方、受け方を覚えたと言っても、時代遅れも甚だしい感は否めないし、想像した通り、本当に使い方を覚えたばかりの電話を掛けてみたい、と言った動機で自分達が呼び出されたのだとしたら心中複雑ではあるが、まあ、そういうのもありか、と。

「ちわーっす」

「お邪魔しますー」

辿り着いたマンスリーマンションの部屋の扉を、ガン、と数度叩いて、鍵の掛かっていなかったドアを勝手に開き、ずかずか、二人は部屋に上がり込んだ。

「おう。遅かったな、馬鹿弟子。龍麻も」

「……ああ、待っていた。すまなかったな、呼び出してしまって」

勝手知ったる何とやら、とばかりに、1Kの和室の部屋に踏み入って来た二人を、京梧も龍斗も、何時も通りに出迎える。

「お土産にと思って、煎餅屋寄ってたんです。それで。たまには、煎餅もいいですよね?」

「ん? ……おっ、塩煎餅じゃねぇか。ああ、たまにゃ、こういう茶請けもいい」

「龍斗サン、そろそろ、ドアに鍵掛けとく習慣付けた方がいいぜ? 昔と違って、今の世の中は物騒なんだっての」

「判ってはいるのだが、どうしても、そういう習慣が付かないのだ。中々、身に染み付いたことは消えない」

ちょいちょい、と先祖達に手招かれるまま、畳敷きのその部屋のど真ん中に置かれた卓袱台に、龍麻や京一が着くのを待って、先祖組と子孫組は、一寸した言葉を交わして。

龍麻達が買って来た塩煎餅を茶請けに、龍斗が淹れた茶を、彼等が啜り始めて暫し。

「実はな、お前達二人に、頼みがあって呼び出したのだ」

一心地付いたのか、漸く龍斗が用件を切り出した。

「頼み? 何です?」

「私も大分、この時代に慣れてきたし、京梧の方も、色々と落ち着いたようだから。以前から京梧と話していた通り、昔の仲間達の墓参りに行きたいと思うのだ」

「墓参り? へー……。……まあ、そういうのもいいんじゃねえの?」

ほんの少しばかり居住まいを正した彼が、頼み、と言い出したので、何の、と龍麻が問えば、彼は、懐かしい人達の墓参りに行きたい、と言い出し、だから京一は頷いてみせて。

しかし、それと『頼み』が、龍麻の中でも京一の中でも繋がらず。

「でも……、墓参りのことで、俺達に頼み、ですか?」

「そうだ。墓参りに行くと決めたはいいが、あの頃の彼等が、今、何処に眠っているのか、私にも京梧にも判らないから」

「…………判らない……と、俺等に頼み?」

「……だから。馬鹿弟子、お前達の仲間内には、俺達の仲間だった連中の子孫達が大勢いやがるだろうが。そいつ等に、先祖代々の墓が何処にあるか、訊いて貰いてぇんだよ」

「あ、なーーるほど……」

「お。そういうことか。納得だぜ」

きょとん、と首を傾げた子孫達に、『だから』お前達に頼みたいのだ、と口々に龍斗と京梧は語って、やっと、子孫達は納得を返した。

「そんなこと、お安い御用ですよ。……あ、でも、そうなると、改めて、京梧さんと龍斗さんの仲間だった人達のこと、ちゃんと教えて貰わないと駄目かな……。誰が誰の子孫なのか判らないと、聞き様がないから」

「だな。──シショー、ちょっくら話してくれよ、その辺のこと」

そうして、龍麻と京一は、だと言うなら、その辺りの事情を詳しく、と言い出し、

「判ってる」

「或る程度までは、京梧に聞いているのだろう?」

京梧と龍斗は、今となっては、とてもとても懐かしい、と言わざるを得ないかつての仲間達のことを、子孫達に語り始めた。