「美里藍って人が美里さんの先祖なのは、前に京梧さんが保証してたからOKで……、えーーっと? 桜井小鈴って人が桜井さんの先祖で、雄慶ってお坊さんが醍醐の先祖でー」
「後は、如月んトコと、雪・雛姉妹んトコだろ。それから……、ああ、霞梅月──秋月真琴ってのは、秋月んトコの先祖か」
「うん。──で、劉って人が、弦月の御先祖様、と。うーーーん……、大宇宙党とかっていう三人組は、コスモレンジャーの御先祖様っぽいけど、どうなんだろうなあ……」
「まあ、訊くだけ訊いてみりゃいいんじゃねえの? ……それから、っと。あー……、壬生霜葉って奴は、壬生の先祖で決まり……か?」
「……だと思うけど……。んーー……、ここまではいいとして、他の人達が判らないなあ……。比良坂さんも、比良坂って人の子孫っぽいけど。うーん……。………………犬神先生に、訊いてみようか? 犬神先生なら、色々知ってるかも知れない」
「あの野郎にかぁ? 素直に教えてくれるとは思えねえけどな。……っても、他に伝はねえしなあ……」
──幕末当時の、龍斗と京梧の仲間達の話を一通り聞かされて直ぐ。
龍麻と京一の二人は、部屋を漁って紙とペンを探し当て、顔付き合わせながら、ああでもない、こうでもないと、龍斗達の仲間と自分達の仲間の間の系譜探りを始めた。
「九角天戒って人は、九角天童の御先祖様だって、やっぱり京梧さんが保証したけど……、九角家の墓って、何処にあるんだろう……」
「俺が知るかよ……。……絵莉ちゃんか、アン子辺りに調べて貰うか?」
「そうだね。それが手っ取り早いかも。じゃあ、それはそういうことにして。一番の問題は、初耳な名字の人達だよねえ……」
「だなあ……。桔梗って人は、那智とかいう家に養女に行ったんだろ? ってことは、那智って家の墓だよな、入ってるとしたら。でも、那智なんて名字、聞いたことねえしな……」
「……ああああ、でも、京都の陰陽道の家なら、御門なら知ってるかも?」
「あ、そっか。ナイス、ひーちゃん」
うんうん唸りつつ、二人揃って余り宜しくない記憶力を駆使しつつ、百面相をしながら子孫達は、先祖の為に励み。
「龍斗。茶、替えてくれ」
「そうだな。──ああ、美味い。この塩煎餅はいい。茶も進む」
その傍らで、事の発端の先祖達は、薄情にも、子孫達の奮闘をまるで他人事のように眺めながら、のんびり茶を啜り、煎餅を齧っていた。
「……………………あ、でも……」
そんな先祖二人を、「そりゃまあ、ご先祖達と子孫達を繋ぐのは、この場では自分達にしか出来ないかも知れないけどさ……」と、内心ブチブチ零しつつ、ジト目で見遣りながらも奮闘を止めずにいた龍麻は、何かに思い当たったように、不意に顔を曇らせる。
「ん? どうかしたか?」
「……京一。俺、大問題に気付いた」
「大問題って?」
「どうやって、皆に、先祖代々の墓がある場所を訊くかってことだよ。要するに、俺達がそんなことを知りたがる理由の言い訳。良くも悪くも、俺達の仲間内って、皆、勘がいいじゃん。迂闊なこと言うと勘繰られない? 勘繰られて、京梧さんと龍斗さんのこと知られちゃったら、ヤバくないかな。京梧さんと龍斗さんの存在そのものは、俺達の仲間内になら知られちゃっても構わないけど、って言うか、隠し通せる訳がないと思うけど、二人が、本当はこの時代にいる筈の無い人達ってことまで知られちゃうのは、どうかなー、とか思うんだよねえ……」
「あー…………。それは、お前の言う通りかも知んねえな……」
「……うん。そりゃ、二人が本当は幕末生まれってこと、皆にならバレちゃっても……、とは思うけどさ。何たって、皆だし。でも、極力、このことは隠しといた方がいいと思うんだ。こうしてる今だって、俺達に下手なちょっかい出そうって思ってる連中はいるかも知れないし……、そんな連中に、二人が刻を駆けたってこと、もしもバレたら、下らないこと思い付かれるかも知れないし。万が一、誰かが何かに巻き込まれたりしちゃったら……」
「そうだな…………。……と、なると。もっと、根本的なトコから『設定』立てなきゃ駄目か?」
「そうかも」
表情を曇らせた龍麻が言い出した『大問題』は、京梧と龍斗の『秘密』に関わることで、「言われてみれば……」と京一も頭を抱え出し、以降二人は、墓探しの問題を一先ず棚上げて、もしも誰かに京梧と龍斗のことを訊かれたら、何と答えるかを考えよう、と知恵を絞り始める。
「──……じゃあ。もしも、誰かに訊かれたら、京梧さんは、京一の剣の師匠で、神夷京士浪って答える、でいいよね? 神夷京士浪ってのは、法神流の宗家が代々名乗る名前で、本名は京梧だから、龍斗さんや俺達は、京梧って呼ぶんだって言えば、多分通るよね」
「一応、俺の遠縁って設定もくっ付けとくか? 俺の遠縁で、神夷京士浪って紹介されるよりも先に、本名の方で紹介されちまったから、京梧って呼んじまってるって」
「あ、そうだね。そうしよう。で、龍斗さんは、俺の親戚」
「えーーーと……。……はとこ……にするんだったっけか? ひーちゃんの親父さんと、龍斗サンの親父さんが従兄弟同士で、だから、はとこ? あれ? 又従兄弟?」
「はとこも、又従兄弟も、一緒だってば。──俺の父さんと、龍斗さんのお父さんが従兄弟同士で、だから俺と龍斗さんははとこ同士で、俺と同じ、黄龍に関係してる力を持って生まれて来ちゃったから、現代社会と隔絶された、ホントーーーー……にド田舎に今までずっと住んでて、でも、俺が黄龍と同居するようになっちゃったって話聞かされたから、俺のこと気にして、最近、東京に出て来てくれた、と。……うん、そんな感じ?」
「いいんじゃねえ? そうしときゃ、龍斗サンが、お前と同じ『力』使えるってのも納得して貰えそうだし、龍斗サンにも『力』があるって判りゃ、連中も弁えてくれるだろうし」
「だね。……あ、京梧さんと龍斗さんが一緒に住んでる理由はどうしようか?」
「そうさなー……。……そろそろ腰落ち着けるかってシショーがしようとしてた処に、龍斗サンが上京して来て。家賃も折半になるから、都会にこれっぽっちも慣れてねえ龍斗サンの面倒、見て貰えないかって俺等がシショーに頼んだ。……ってのは?」
「んーーーーー…………。……そうだね、そんな辺りが妥当かな。……ん。決定」
そうして、懸命に懸命に、本当………………に懸命に、余り豊かでない知恵を絞りまくった二人は、何とか、京梧と龍斗に関する設定その他をでっち上げた。
「塩っぺぇモンばっかりってのも、何だな」
「羊羹でも切るか? 昨日味見をしたら、中々美味かった」
──肩で息をしなければならぬ程に真剣に、何とか設定をでっち上げた子孫達を何処までも他所に。
京梧と龍斗は、縁側で茶飲みに耽る隠居衆宜しく、暢気に語らっていた。