「へぇ……。そんなことがあったんですか」

「ふーん。不思議な話っちゃ不思議な話だけど……、龍斗サンとシショーが二人揃って絡んだことだから、何でもありって奴か?」

──京梧と龍斗が、懐かしい人々との、泡沫の夢のような再会を果たした数時間後。

『墓参りもどき』をする為に、天龍院の跡地や真神に行った筈の二人が朝になっても帰宅していないことに気付いた為、酷く気を揉み、早朝から先祖達の部屋へ乗り込んで、昨日から今朝に掛けて京梧と龍斗が何をして、そして何を体験したのか、相伴した朝食の席で聞かされた龍麻と京一は、食後の茶を啜りながら、しみじみと感想を述べた。

「俺と龍斗が揃ってると、どうして、何でもありになるんだ? 馬鹿弟子」

「まあまあ、京梧。──確かに京一の言う通り、不思議な話と言えぬこともないが、不可思議か否かなど、私にはどうでも良い。懐かしい、あの頃の皆に逢えたのだから、それだけで良い」

京一が洩らした感想が、京梧は若干気に入らなかったようだが、ムッと目を細めた彼を龍斗は宥め、自分は昨夜の体験だけを受け止めると、にっこり笑った。

「でもまあ、何はともあれ、昔の皆に逢えたんだろ? 良かったんじゃねえ?」

「うん、そうだね。京梧さんと龍斗さんにしてみれば、嬉しい出来事なんだし。けど、俺、一寸だけ引っ掛かることが……」

「ん? ひーちゃん、何がだ?」

「京梧さんは、幽霊とか、そういうことに全く縁がないタイプだそうだから、昔の皆のことが判らなかったとしても、しょうがないんだろうって思えるんだけど、何で、龍斗さんまで判らなかったんだろうなあ、と。俺、それが一番不思議でさ。確かに、龍斗さんの目が覚めてからこっち、一ヶ月近くも色々バタバタしてたけど」

聞いた限りでは、京梧と龍斗の二人揃って、狐か何かに鼻を摘まれたんじゃないか、としか思えない体験談だけれど、当人達が納得し、且つ喜んでいるのだから、だったらそれでいい、と龍斗の笑みを眺めながら京一は言ったが、龍麻は、一つだけ、どうしても納得出来ないことがあると、湯飲み茶碗を握り締めつつ、悩む風に眉間に皺寄せた。

「そんなに不思議なことか?」

「ええ。龍斗さんは、不思議に思いません?」

「いや、別に」

「……何でです?」

「天戒達は、自分達の魂の──想いの還る場所は、私達の傍ら『にも』在ると、そう言った。彼等が、霊魂という形で私達の傍らに添っていたのでなければ、私にも視えずとも何ら不思議ではない。……想いは、ナニモノの目にも映らない。想いに、手に取れる形などない。だからこそ、探すに値し、求めるに値し、注ぎ合うに値する。想いとは、そういうものだろう? ……彼等は、想いという形で私達の傍らにあったのだ。そんな彼等が、夕べ、『皆』の力をも借りて、私達にそれでも『姿』を視せてくれたのは、私と京梧が、私達の傍ら『にも』在った、彼等の想いを探せなかった為だろう。視えはせぬけれど確かに在るモノを、視えぬと嘆いた私に、業を煮やしたのだろう。多分、だが」

すれば龍斗は、茶を注ぎながらさらりと言って。

「……でも。もう、視えずとも良い。『彼等の一つ』も、私と京梧の傍らにあると知れた。私達も、彼等の魂の還る場所の一つと知れた。だから、私は、もういい。これで本当に、悔いることなど一つもなくなった。……なあ? 京梧?」

きょとん、とした顔を作った子孫達に、改めて彼は笑い掛け、

「ああ、そうだな。俺も、もう満足だし、悔いも失せた。後はもう、何時の日か『向こう』に逝った時、夕べの説教の礼を、たんまり返すだけだ」

笑んだまま見上げてきた龍斗に促される風に、京梧も愉快そうな声を洩らした。

「はあ……。ま、まあ、いいか……」

「そだな。でも、まあ、な」

「うん。兎に角、これで一段落付いたっぽいし?」

「おう。──もう、今回みたいな騒ぎ、二度と起こさないでくれよ、馬鹿シショーも龍斗サンもっ」

「あっ、そうだ。俺も、それ言おうと思ってたんだ。もう、あんまり脅かさないで下さい。昔の皆に逢って来るって言ってたから、どうしただろうと思って電話してみたのに、何時になっても出ないから、何か遭ったんじゃないかって、俺達眠れなかったんですよっ」

──夕べのことを思い出し、幸せそうに笑む二人の言動が、子孫達には今一つピンと来なかったようだけれど。

京梧と龍斗が満足だと言うなら、何がどうだろうとどうでもいいかと、龍麻と京一は、その話を脇に避け、ブーブーと文句を垂れ出し。

「はいはい。判った判った」

「ったく、うるせぇ連中だな。俺達の方が、お前達よりも遥かに大人だぞ?」

年上で先祖な自分達に、一人前に説教を垂れようとする年下な子孫達に、龍斗と京梧は、口先では言い返しながらも、堪えきれぬように、声を立てて笑った。

自分達を、魂の還る場所の一つ、と定めてくれた、かつての仲間達の許へと辿り着ける日は、未だ未だ、大分遠い先の話らしいと、心秘かに思いながら。

End

後書きに代えて

端的に、一言で言い表せば、墓参りの話、な今回の話。

ちょいと、幽霊さんな形で、外法帖のキャラの一部を出してみました。

あ、そうそう。外法帖の中で、九角天戒は、京梧のこと、蓬莱寺って呼んでたと記憶してますが、うちの天戒さんは、京梧と呼びます。京梧も、彼のこと、九角、ではなくて、天戒と呼びます。

……それにしても、ホントーーー……に、お騒がせで面倒臭い二人ですね、うちの『ご隠居』達は。

ま、多分きっと、京梧は龍斗を叩き起こせて、龍斗は京梧と再会出来て、箍が外れたんでしょう。

んで以て、外れっ放しなんでしょう。箍。

…………多分、もう二度と、元には戻らんな、この二人の箍。

迷惑を被るのは、概ね、龍麻達若人四名、時々剣風帖のメンバー、な感じなので、ま、いっか(おい)。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。