東京魔人學園伝奇+九龍妖魔學園紀 捏造未来編

『来年のクリスマス』

二〇〇五年 十二月二十四日 アメリカ合衆国ハワイ州ハワイ島、ハワイ火山国立公園────の片隅。

「おーー、今日も元気だなあ、キラウエア火山!」

その年の、現地時間のクリスマス・イヴ当日の早朝。

未だ未だ新米の宝探し屋、葉佩九龍は、目の上に右手にて庇を作り、ハワイ島の国立公園内の原生林の直中で、煙を吐くキラウエア火山を見上げていた。

「お前は、どうして飽きないんだ? 毎日毎日、火山なんか眺めたって何も変わらないってのに」

腰に長袖のシャツを巻き、半袖姿で仁王立ちして、自然って凄い! と、ここ数日、朝が来る度、飽きもせずにそうやって高らかに言い放つ九龍を、彼の傍らに、のそり、と立った、新米宝探し屋の新米バディな皆守甲太郎は、呆れつつ見遣った。

「え、甲ちゃんは飽きる? 煙の出方とか、雲の棚引き方とか、毎日違うっしょ?」

「……俺は、そういうことを言ってるんじゃない……」

けれども九龍は、めげる処か明るく笑って振り返り、故に、甲太郎の呆れは益々深まり、

「ったく……。何で、この年の瀬にハワイの原生林なんかで這いずり回ってなきゃならないんだか……」

やれやれ、と彼は、その日も晴天の空を仰いだ。

「あ、始まった、甲ちゃんのぼやき。仕事なんだから仕方無いって」

「そんなこと、俺だって判ってる。……但。探索を切り上げてから一日半も経つってのに、この、潜り込まされた一面の緑の中から抜け出せずにいるのは、どうしてなんだろうな、と言いたいだけだ。…………なあ、九ちゃん? な・ん・で、なんだろうな?」

「……………………えーーーーと。一面の緑の中に潜り込んだのはー、ロゼッタからー、『カネの水』に関する手掛かりを探して来ーい、って言われたからでー。その探索打ち切ってから一日半経っても未だにここから出られずにいるのはー、俺が間違えて、ロゼッタから『H.A.N.T』に転送された探索資料を消しちゃったのに、何でか、上手くロゼッタと連絡が取れないから、が理由でー」

「……判ってんなら、これ以上、俺を苛立たせる喋り方で、苛立たせる事実を話すな、馬鹿九龍っ!」

でも、九龍の能天気な声は辺りに響き続けて、どうして、今、自分達が、この季節にこんな所で徘徊していなくてはならないのかを、改めて噛み締めた甲太郎は、思い切り、九龍を蹴り飛ばした。

九龍が、所属している国際的なトレジャーハンター・ギルドのロゼッタ協会から、ハワイ島にての探索を依頼されたのは、十二月初旬のことだった。

日本の東京都・新宿区の天香学園内に存在していた遺跡の探索要請の時のような、半ば強制の仕事ではなく、依頼を引き受けるか否かの選択権は与えられている仕事だったから、「クリスマスから年末年始に掛けては、のんびりした仕事がいいって言うか、いっそ、仕事は無しの方向で!」と思っていた九龍は、断れるものなら断りたい、と若干渋い顔をしたが、如何せん、彼は未だ新米の域にいる宝探し屋なので、迂闊に仕事を断ろうものならホサれる可能性が大だし、探索が上手くいけば十二月下旬は暇になるかも! と、結局、獲らぬ狸の皮算用で探索依頼を受けた。

ロゼッタよりの依頼内容は、ハワイ諸島に伝わる神話で有名な、『カネの水』──死者を甦らせる『蘇生の水』に関する手掛かりを探して来い、と言う、「又、そういう無茶を……」と、思わず彼と甲太郎の二人して同時に呟いた、トンデモな物だったので、最悪、『探索の結果、手掛かりなし』との報告結果を出しても許されるな、と踏んで。

…………だが。

依頼を承諾した旨をロゼッタに伝え、滞在していた母国・日本からハワイに乗り込み、ホノルル市内で探索の為の支度諸々を整えてからハワイ島に移り、十二月十二日、国定公園の中の、広大な原生林に忍び込んで──言うまでもなく、違法行為だ──、時折、『H.A.N.T』を開いてロゼッタが寄越した資料や地図を確認しつつ一面の緑の中を右往左往し、十日程が経った頃。

これはもう、Get treasure処か、手掛かりが掴める可能性すらゼロだから、探索を打ち切ろう、と判断した九龍は、街に戻ろうとしたのだが。

地図を頼りに戻る途中、誠にうっかり、彼は、『H.A.N.T』の操作を誤って、その地図毎、探索資料を消去してしまった。

呆気無く方向を見失える原生林の中から抜け出る『頼みの綱』を、自らの失態で失ったと気付いて直ぐ、九龍は慌ててロゼッタに連絡を取ろうとしたが、磁場の関係なのか、キラウエア火山の活動の影響か、運悪く、電波障害の類いに阻まれて、通信機材は全滅で。

以降、一日半、九龍と甲太郎の二人は、原生林の中を彷徨う羽目になっている。

「そりゃ、地図消しちゃったのは、俺のうっかりミスだけどさあ。ロゼッタもロゼッタだっての。死んじゃった人間を生き返らせる水の手掛かりを掴んで来い、なんて、土台、無理な話だって、甲ちゃんも思うっしょ? ……くそぅ、ロゼッタ『農協』め……」

──そういう訳で、彷徨い始めて二日目の朝も、『再び』、甲太郎より或る意味での制裁を喰らった九龍は、脅威の回復力を発揮して立ち直って直ぐ、己のミスを棚に上げ、最近は専ら、何かあると、『農協』と揶揄することにしているロゼッタへの八つ当たりを零し、

「お前、それは幾ら何でも逆恨みだ。──それよりも、九ちゃん。この間っから言ってるが、間違っても、ロゼッタの本部や支部で、農協、なんて口走るなよ」

本当にこの馬鹿は……、と甲太郎は唯々、溜息を零した。

「俺も、甲ちゃんと出逢ったばっかりの頃から言ってるじゃん。この間も言ったじゃんか。ロゼッタなんか所詮、宝探し屋版農協だ、って。いいんだよ、本当のことなんだから。──処で、甲ちゃん」

しかし、溜息を吐かれても、釘をされても何のその、八つ当たりモードから一転、九龍は今度は、にこっと、晴れやかな笑みを浮かべて、傍らの甲太郎を見上げた。