「……御門。そうは言っても。あの隠居達が、京一の旦那や龍麻の先生の血族だってのを、疑う余地はねえぞ? 何処からどう見たって、一目で納得するしかねえ血の繋がりがある」

「だから、問題なんだと思いませんか、村雨」

御門に突き付けられた事実に、最も揺らがなかったのは村雨だった。

彼は、だとしても血縁に違いは無い筈だ、と確信を持って言い切り、『だから』と、御門は言う。

「……どうして」

「何処からどう見ても彼等の血族の筈なのに、戸籍上は存在しない、若しくは存在しなかった人物など、どう考えてもイレギュラーですよ。只のイレギュラーなら放っておけますが、問題は、神夷さんの『力』も龍斗さんの『力』も、我々と同質、という事。特に龍斗さんは、黄龍に関わる『力』を持っているんです。……もっと言いましょうか? 先程、醍醐も劉も壬生も、龍山先生、道心さん、鳴滝館長が、神夷さんと龍斗さんの話をされた際に、妙な態度を取ったと言っていましたね。その理由は恐らく、彼等も又、『緋勇龍麻のはとこ』など存在しないと知っていたからです。神夷さんの事も知っているでしょう。私に調べが付いた事が、鳴滝館長に調べられない筈などありませんから。しかし、彼等も、それには敢えて目を瞑っています。ひょっとしたら、龍斗さん達の戸籍を得たのは、鳴滝館長かも知れません。神夷さんと龍斗さんの正体までは、掴んでいないでしょうけれど」

「…………判った、判った……。……しかし……、だったら、あの隠居達の正体は何だ? 肝心なのは『そこ』だろ。大した事で無けりゃ放っとけるが。大した事だったら放っておけねえ」

「ですから。貴方達に、龍斗さん達や、葉佩さん達に関して教えて欲しかったんです」

「うーんー……。……ねぇ? 何で、ダーリンや京一君はぁ、そうやって、龍斗さん達の何かを隠すのかなあ?」

そのまま御門と村雨は言い合いを続け、んー……と、舞子が小首を傾げて悩み出した。

「そうやなあ……。アニキと京はんのことやさかい、どーせ、仲間内に迷惑掛かってしもたらアカン、みたいな水臭い動機なんやろうけど」

「それは有り得る。龍麻も京一も、その部分は何時まで経っても馬鹿だからな」

「……あ。なら。『僕達が知ってしまったら迷惑が掛かるかも知れない』、それが、神夷さん達の正体、とならないかい?」

「迷惑……。迷惑、ですか……。……やはり、『力』絡みですかね」

彼女に釣られたように、劉も醍醐も如月も壬生も、揃って腕組みをして悩み始め、

「…………あ、の。……実は、その…………」

そろ……と、紗夜が重い口を開いた。

「比良坂サン? どうしたの?」

「えっと……実は…………。……この間の騒ぎの翌日、その、院長先生の独り言を聞いちゃったんです……。『京一に関わる事以外で、《あの力》が目覚める理由……』って言ってたのを……。あの時に、蓬莱寺さんだけじゃなくて龍麻さんまで入院したのは、その所為みたいで…………」

「その所為? 京一以外の理由で、ひーちゃんの中の黄龍が起きちゃったってこと?」

「た、ぶん……。……だから、もしかしたら、龍斗さんとか神夷さんとかが、『その理由』だったんじゃないかって、今、思っちゃって……」

「成程……。もしも、比良坂さんの『それ』が当たりなら……」

彼女は、机を挟んだ向こう側の小蒔に向かって躊躇いながら打ち明け、御門は、考え込む風になる。

「………………正直に言えば。私が今回の件で最も気になったのは、芙蓉なんです。彼女の件が遭った所為で諸々を調べる気になって、貴方達を呼んだんですよ」

「芙蓉はん? 何でや?」

「芙蓉も宿星の者ですから、龍麻の頼みだったなら理解出来ましたが、桜ヶ丘でのあの時、結界を築く手を貸せ、と言ったのは神夷さんで、私が命じた訳でも無いのに、彼女は自ら引き受けた。ですが、その折に芙蓉が盗み見ていたのは龍斗さんで、恐らく、神夷さんで無く龍斗さんの為に、彼女は手を貸した。最大の使命であるマサキ様の守護すら脇に退け、主である私を通り越してまで。…………だとすると。龍斗さんは、式神である芙蓉が従って当然の存在で、龍麻の中の黄龍さえ目覚めさせるモノ、となりますが。そんなモノが、この世に在る筈ありませんし…………」

「だってなら、一つだけ言えるな。何も彼も、それこそ『だとすると』って奴だが。これだけの駒が揃っちまった以上、正体が見えなかろうが、真相がどうだろうが、京一の旦那の剣の師匠と、龍麻の先生の『はとこ殿』からは目を離さない方がいい、ってだけは。万が一にでも黄龍が起きちまったら、大事じゃ済まねえ」

「確かに。葉佩君達からも、目を離さない方がいいんでしょうね」

深く考え込む彼の言葉に、村雨と壬生は頷き合って、

「ミサちゃ〜ん〜、帰る〜〜」

それまで一言も発しなかった、ミサが立ち上がった。

「…………裏密さん。今日は最後まで、黙りを通したようですが。思われる事も言う事も、ありませんか?」

「ミサちゃ〜んに言える事なんか〜、何も無いよ〜〜。……今は、未だ。何も言えない。────あ〜、でも〜、『西新宿の道場』からは〜、目を離さない方がいいって言うのには〜、ミサちゃ〜んも賛成〜〜。…………絶対に、目を離しちゃ駄目」

立ち上がるや否や、くるりと背を向けた彼女に御門は物言いた気になったが、肩越しに振り返ったミサは、ニタリ……、と笑うと、目付きだけは真剣に、そう言い残して去った。

「…………雄矢クン。今のミサちゃんのあれ……、忠告だよね……?」

「だろうな。────都合がいいことに、少し前、京一も龍麻も、放浪資金が尽きたから当分の間は日本にいると言っていた。尻尾を掴むなら今だろう」

「わい、瑞麗姉に、それとなく探り入れとく。龍斗はん、瑞麗姉がお気に入りみたいやねん」

「弦月さん。近い内に、私と姉様を西新宿へ連れて行って下さいませんか。改めて、神夷様と龍斗様にお会いしてみたく思います」

「なら、俺は、龍麻の先生達の『資金稼ぎの邪魔』でもするか。海の向こうに逃げられたら面倒だ」

「如月さん、ロゼッタ関係を頼めますか? 僕は、M+Mの方から探りますから」

「判った。念の為、天香の方も窺っておこう」

「あ、そう言えばぁ、暫く、皆守君が桜ヶ丘に通うんだったっけ。その時にぃ、色々見張ってみよっかぁ、紗夜ちゃん」

「そうですね。どっちみち、それとなくしか出来ませんから」

「……では、後日に改めて」

忠告にしか聞こえなかった『新宿の魔女のお告げ』に、仲間達は一様に顔を見合わせ、それぞれ思う所を告げ合った彼等は、一先ず今日は解散と、御門グループ本社の応接間を出て行く。

「『哲学の子供』…………。裏密さんが言っていた、哲学の子供の意味が判らない。緋勇龍斗が『そんなモノ』である筈は無いのに。……彼女は一体、どの意味でその言葉を使ったのか……」

────そうして、ガランとなった寂しい室内に一人残った御門は、あの日、桜ヶ丘でミサが洩らした一言を、何時までも考え続けていた。

To be continued...

The next stage begins in Shinjuku about a half year later.

後書きに代えて

ちょいと調べてみたら、この話の初稿を書き出したのは2012年10月でした。

ENDマーク打ったのが2017年06月13日なので、「馬鹿!」と自分で自分をド突きたいんですが、途中でドラクエに心が飛び、挙げ句、結構重度の『新作書きたくない病』がやって来てしまったので、致し方なかった、ということで一つ(スライディング土下座)。

更に挙げ句に、年単位で放っておいたからと殆ど一から書き直したら、明確なENDでなく、To be continuedになってしまったと言う……。

最初っから、この話は二部構成みたいな感じの予定だったんですが、ここまでハッキリ続くプロットでは無かった筈……のような。……まあ、いいか。

──と言う訳で、妖刀を巡るお話でした。

別名:京一vs妖刀・村正との十年越しの因縁解決。又は、京一が多分不憫で、だから龍麻も恐らく不憫で、迷惑被った周囲が最も不憫な話。

可哀想に(棒読み)。

隠居達の正体は、所詮『あれ』なんで、剣風帖の仲間達は色々考え過ぎなんですが、此れ幸い&序でに、その内に一波乱起こして頂きましょう。

んで以って、九龍サイドは千貫さんのチートっぷりが増した。千貫さん、愛してる。私はジジイが好きだ。大好きだ。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。