東京魔人學園伝奇+九龍妖魔學園紀 捏造未来編
『新宿を往った夜』
§ 子孫達 §
幾度目かの、緋勇龍斗迷子騒動を終えたその日、午後十時頃。
思い掛けず半日以上を空けてしまった自分達の部屋に、京一と龍麻は帰って来た。
三日前に京梧に頼まれた通り、龍斗の様子を見て、昼食を共にしたら程々の処で切り上げ戻るつもりだったから、部屋の一部は片付いていなくて、「ああ、家事が溜まる……」と遠い目しつつ、やれやれ、と顔見合わせた彼等は、苦笑し合って腰を下ろした。
「あーーー、疲れたー……」
「結局、六時間近く歩き回ったもんな。休みもせずに」
「うん。まあ、無事に龍斗さんが見付かったからいいけどね。……ホント、家のご先祖って、どうしてああなんだか…………」
「ま、しょうがねえって。それに、それを言うなら馬鹿シショーだってそうだぜ。何で、俺の先祖だってのに、あいつはああなんだ……」
コーヒーを淹れる元気もなければ、冷蔵庫からビールを引き摺り出す元気すら生まれなくて、龍麻も京一も、へなへな、小さなテーブルに突っ伏す。
「……今度からさ、龍斗さんが迷った時には、何処にいるか決め……って、駄目か。それが出来てたら迷わないよなぁぁぁぁぁ……」
「あ、じゃあ、龍斗サンの携帯を、オトシヨリ用のじゃなくてガキ用のに買い替えて、GPSで居場所が……って、んな操作、馬鹿シショーにゃ無理だな……」
「って言うかさ。龍斗さんだって別に、方向音痴って訳じゃないんだから、出掛けてる時は、例の『皆』と話をしなきゃいいんじゃ? ちゃんと周り見て歩けば、迷わないと思うんだよねー、俺」
「………………それは、龍斗サンには無理な相談だと思うぜ? 花園神社で俺等に捕獲された後だって、『稲荷神に頼まれ事をしたから行かないと』とか何とか、しれっと言ってたじゃんよ。これっぽっちも懲りてねえぞ、あれ」
「だよねえ……。うーーーーん…………。犬猫じゃないから、リード付けとくって訳にもいかないしなあ」
「おいおい、ひーちゃん……。てめぇの先祖捕まえて、そーゆーこと言うか……?」
「言う。我が先祖だからこそ言う。この際、言う。……諦めるしかないのかな」
「諦めるしかねえだろうな。ま、今頃は龍斗サン、馬鹿シショーに目一杯説教喰らってんだろうから、幾ら何でも暫くの間は、一人では出掛けねえだろうし」
「だね。京梧さん、夕飯の間も、ずっと不機嫌そうな顔してたもんなー。俺、一寸同情しちゃった。京梧さんも結構苦労してるよな、って」
「馬鹿シショーは自業自得だろ。どーせ、今まで散々っぱら、龍斗サンのこと甘やかしてきたに決まってんだから。龍斗サンも龍斗サンで、馬鹿シショーには底抜けに寛容だけどな」
未だ未だ残暑の名残りが窺える空気の中、ひんやりと冷たいテーブルに思い切り懐いて、ぶつぶつぶつぶつ、愚痴めいた会話を二人は繰り広げる。
「……確かに。京梧さんは、龍斗さんにかなり甘いトコあるし、龍斗さんは京梧さんに、これでもか! ってくらい寛容だし。万年新婚な、恋人夫婦だし。…………ねえ、京一」
「んー?」
「俺達のご先祖様って、恥ずかしいね…………」
「……ひーちゃん、言うな。頼むから言うな。それ以上言わないでくれ。俺等、あの二人とそれぞれ血が繋がってんだぞ!?」
「しょうがないじゃん、事実なんだから。…………でも、さ」
「…………でも、何だよ」
「もしかしたら、今日の二人に当てられてるのかも知れないけど。正直、一寸憧れないこともないんだよね」
「あ、憧れ……? あの、万年新婚恋人夫婦にか?」
「その部分に、って訳じゃなくってさ。何て言うかな。敢えて言葉にするなら、ものすごーーーく、全てのことに対して堂々としてるトコとか。何時まで経っても、色んな意味で仲がいいトコとか。俺達以上に人生波瀾万丈なのに、滅茶苦茶逞しいトコとか」
「…………成程。…………ま、そーゆー意味でなら、ひーちゃんの言ってること、判らねえでもねえな」
「だろう?」
懐いていたテーブルは、懐き過ぎて温くなってしまって。
よいしょ、と、ちょっぴり年寄り臭く身を起こした龍麻が、ポソポソっとした声でそんなことを言えば、釣られたように起き上がった京一も、肩を竦めながら彼の意見に細やかな同意を見せた。
「でも、俺は、あそこまで恥ずかしいのは勘弁だな」
「俺も、あそこまでは一寸」
「シショー達はシショー達、俺達は俺達、だしな。────つー訳で、ひーちゃん。そろそろ、恥ずかしい先祖共の話は止めねえ?」
「…………止めて、どうすると?」
「決まってんじゃん。俺達も、あの二人みたいに、仲良く、な?」
「………………うわー、やっぱり。京一も、あの二人に当てられた?」
「……多分な。で? どうする?」
「それはー、そのー」
「その?」
「………………そーゆー意味でも、あの二人に当てられたかもシレマセン、ハイ」
────へっちょりしていた間、延々、割と傍迷惑な先祖達の話ばかりをしていた二人だけれど。
身を起こし、眼差しを交わしてよりは、『自分達の今宵』のことを会話に織り交ぜ始めて。
何処となくばつが悪そうに笑い合って、立ち上がると、少々『邪魔』な部屋の灯りを落とした。