東京魔人學園伝奇+九龍妖魔學園紀 捏造未来編

『もう一つのsweet home』

二〇〇五年の十月末日。

蓬莱寺京一と緋勇龍麻の二人が、諸事情あって幕末の頃より時を越えて現代へとやって来た己が先祖達──蓬莱寺京梧と緋勇龍斗の二人に押し付けた『仮住まい』の、契約期限が切れた。

──同年四月始め、西新宿の片隅にあるマンスリーマンション──因みに和室タイプ──を先祖達の為に借りた際、龍麻と京一は、家賃を前払いするのを条件に、十月末までの賃貸契約を不動産屋と交わすことに成功しており、それより過ぎること約半年、晩秋の声も聞こえ始めた十月半ば、「もう直ぐ部屋の契約が切れるけれど、この先はどうするつもりなんだ」と龍麻達が先祖達に問い質したら、先祖達は、龍麻にとっては武道の師に当たり、京梧にとっては二十数年前の戦いの際の戦友に当たる鳴瀧冬吾より仕事の口をもぎ取れることになったし、当面、生活には困らないだろうから、又暫く、このまま今の部屋に住み続ける、と言い出して、もう心配性な子孫達の手を煩わせずとも何とかやって行けるから、お前達はお前達の好きにするといい、とも告げて来たので。

そういうことなら、と京一と龍麻は、先祖達と、連絡を付けて呼び出した鳴滝を引き連れて、半年前に訪ねた不動産屋へ再び赴き、それまでは龍麻名義で借りていた先祖達の部屋を、改めて、鳴滝名義で借り直す手続きを終えると、延び延びになってしまっていた修行の旅を再開すべく、真神学園を卒業したばかりのあの頃のように、成田国際空港より、又もや中国へと旅立って行った。

彼等の旅は、単に誰よりも強くなる為の修行だけが目的ではなく、龍麻の中に眠る黄龍の封印の綻びが齎す、様々な『不安定要素』を解決する手段を模索する為の旅でもあり、且つ、オカルト的な意味での裏社会では有名過ぎる特殊な『力』を持つが故に、早々簡単には得られそうもない『安住の地』を探す為の旅でもあるので、何時終わるとも知れぬし、一先ずの行き先は中国だけれども、明日、どの国のどんな大地に立っているのか彼等自身にも判らぬから、京梧は面倒臭いと渋ったけれど、どうしても行きたい、との龍斗の達ての頼みを汲んで、成田まで二人を見送りに行った先祖達──と言うか、龍斗──は、旅立つ彼等に、「必ず、最低でも月に一度は報せを入れるように。居場所を変えたら直ぐに教えるように。でなければ行かせない」と、くどい程に念押しして、内心では我が子のようにも思っている若い二人と別れ。

それより時過ぎて。

一年一ヶ月近くの月日が流れた、二〇〇六年、十一月。

「えーーーと。すみません、よく聞こえないんですが……。……ええ、俺達、今、グアテマラの……。──あー、兎に角ですね、すんごい森の中にいるんですな。だから、電波が……。…………はい? いや、その。今ここで、電波とは何ぞや、ってことを説明する訳にはー…………。……あーもー、だからですねー!! ………… え? はぃい? 今直ぐにですか? そりゃまあ、丁度仕事終わった処なんで、向かえないこともないですが……。…………って、あ、一寸! ちょーーっと待ったーーー! 京梧さんっ。京梧さんってば!! ……あー、切れちゃった…………」

その年の、現地時間で十一月初旬某日の朝。

京一や龍麻の弟分であり、京梧や龍斗とも深い縁のある、ルーキーイヤーは過ぎたものの、未だ未だ駆け出しでしかない宝探し屋の葉佩九龍と、九龍のバディである皆守甲太郎の二人は、グアテマラ共和国──ユカタン半島の付け根辺りに位置するティカル遺跡に程近い、密林のど真ん中におり。

数日に亘って潜り続けていた、公式には未発見の遺跡の中から這い出てきた直後、どのようなコネを使って番号を知ったのやら、所属するトレジャーハンター・ギルドのロゼッタ協会から彼等が借り受けた衛星電話に電話を掛けてきた京梧と、九龍は大声での会話をしていた。

「九ちゃん? 何がどうした?」

ギャーギャーと、極彩色な鳥達が鳴き喚く密林の直中で、終えたばかりとは言え、極秘な遺跡探索の任に着いている者が放つには誠に相応しくない声のボリューム、そして内容に、九龍の傍らで、アロマパイプに灯を入れつつ甲太郎は渋い顔をし、

「それがさー……。ほんっっきで、どうやって、これに電話掛けられたのか判んないんだけど、京梧さんが──

──今さっきの電話の相手が、京梧さんだってのは判ってる。九ちゃんが、散々、京梧さん、って連呼してたからな。だから、京梧さんがどうしたんだ?」

「……今直ぐ、日本に帰って来い、って」

狐に摘まれたような顔付きになっていた九龍は、甲太郎に、聞き取り辛かった京梧よりの電話の内容を伝えた。

「……は? 日本に? どうして? と言うか……、何で、俺達に、なんだ? 京一さん達になら、京梧さんや龍斗さんが、帰って来いと、問答無用で言い渡してもおかしくないが」

教えられたことに、渋い顔していた甲太郎も狐に摘まれたような顔付きになる。

「さあ……。京梧さん、理由言わなかったんだよ。わざと言わなかったんだと思うんだけど、兎に角、今直ぐ帰って来い、の一点張りでさー……。ついさっき一仕事終えたばかりだし、次の仕事も未だ入ってないから、帰ろうと思えば帰れるけど……。……甲ちゃん、どーする?」

「どうするも、こうするも。京梧さん達のお達しなら、帰らない訳にはいかないんじゃないか? 京一さんと同じで、あの人も、こう、と決めたらしつこいしな。それに、俺達を呼び付けるくらいなんだ、何か遭ったのかも知れない」

「お、言えてる。うん、何か遭ったのかも。…………まさか、あにさん達に何か、ってことはないと思うけど……急ごっか、甲ちゃん」

「…………そうだな」

突然の一方的な申し渡しに、二人揃って、きょとん……、とはしたものの。

脳裏に嫌な想像を巡らせてしまった彼等は、少々慌てた手付きで荷物を纏めると、足早に、密林より抜け出る為の道を辿り始めた。