38.アレとの関係 act.4
成りゆきで始まってしまった『話し合い』の席。
「さて、どうしましょうかね」
横目で、ホウアンとシュウの姿を捕えながら、先ずカミューが口を開いた。
「どうするもこうするも……。今後どうするか、具体的な事は何も決まっていないからな……。ルカを失ったハイランドがどうするかも判らんし……」
呟く様な親友の言葉に、マイクロトフが唸った。
「まあ……取り敢えずは、家のリーダーと軍師の容態次第だな。ルカが死んで、浮き足立ってるだろうハイランドを叩くんなら、余りのんびりとはしていたくない処だが」
マイクロトフの唸りを肯定するかの様に、俺達だけでは動きようがない、とフリックは溜息を付いた。
しかし。
「そうだな……」
「そうですね……」
「ま、俺は単なる、内偵屋だからな、ここでの仕事は……」
さあ、この事態をどうしよう、と。
カミュー、マイクロトフ、フリックの三人が、語り始めたにも拘らず。
ビクトール、クラウス、リッチモンドの三人は、曖昧な返答だけを返して、有らぬ方を向いた。
「あのですね」
そんな彼等を、カミューが向き直った。
「何だよ」
じっと見詰めながら、『綺麗な』笑みを湛えるカミューを、ビクトールは飄々と見返した。
「……そろそろ、誤魔化し合いは止めませんか、ビクトール殿」
「誤魔化し合い? 何の」
「恍けられても、無駄ですよ。……何か、隠してらっしゃるでしょう。ルカ・ブライトを倒しても、ハイランドが倒れた訳ではありません。私達の戦いは未だ、続くんです。今、誰が欠けても、我が軍の戦いは、立ち行かなくなる。だからもし、貴方達が隠している事が、シュウ殿のこの有り様と関係あるなら……。──私達は、負ける訳にはいかないのですから」
腹の底を探って来る様なビクトールの視線に怯む事なく、カミューは告げる。
「だが……もう、それは……。ああ。終わった話……だ」
きっ……と、表情を固くし、もう済んだ事だ、と、ビクトールはそれを流した。
だから、そのまま。
彼等の間に漂った、何とも言えず、如何ともし難い雰囲気は、暫し引き摺られるかと思われたが。
「話してやれば良かろう? ビクトール。……ああ…もう、過ぎた事だ……」
何時の間に気付き、何時からやり取りに耳傍だてていたのか、不意に放たれたシュウの声が、その雰囲気を崩した。
「起き上がっては駄目ですっっ」
その声に、ベッドの方角を、男達が振り返れば、ホウアンの制止も聴かず、起き上がろうとする軍師の姿があって。
「だけどよ、シュウ……」
「大丈夫なのですか? シュウ殿」
彼等はベッド脇へと、集う。
「ああ、ホウアン殿。私なら、もう──」
「──医者に、そんな誤魔化しが効くとでも思ってるんですか? ……シュウ殿、貴方、最後に食事をしたのは何時です?」
「…………さあ。覚えていない。昨日だったか、一昨日だったか……」
「……どれくらい前から、嘔吐の症状は、出てましたか?」
「…さて? ああ……確か、盟主殿やフリックが、グリーンヒルに潜入していた頃から、むかつきはあったが? 実際に戻す様になったのは、あれが、皇王になった日から、だ」
「随分、以前からですね。…シュウ殿? 貴方のそれは、心因性のものですよ。自覚はありますか?」
「…………ない」
が、寄って来た人々を尻目にしての、シュウとホウアンの言い合いは続き、しかし、呆れた風な溜息を零した医師を押し退けて、シュウは半身を起こし。
「もう、過ぎた事なのだし。初めから、私のこの立場とは関わり合いのない次元の話なのだから、聴きたいと云うなら、聞かせてやればいい」
ビクトールと、クラウスと、リッチモンドの顔を、彼は見比べた。
「だが……」
促しに、ヒクトールは口籠ったが。
「私なら、この場にいない者として扱えばいいだろうが。ああ、それよりも、私の口から語った方が、いいのかも知れないな」
さらりとシュウは云ってのけて、自ら、口を開いた。