53.少年達の願い act.1

泣き腫らした目許に、どうしても視線が釘付けにされてしまう顔で、精一杯の笑顔を作り。

「死んでしまった人はもう、還っては来ないんだよ」

……と、少年は云った。

「ルカっ! ルカさんっ!!」

──同盟軍本隊が、ルルノイエを落とす為、行軍に発ってより、数日後。

流石に、己の生まれた場所を落とす策には同道出来ぬと、本拠地に居残っていたルカの前に、どっかりと、石作りの床に踏ん張る音を盛大に立てて、今はハイランド領内にいる筈の盟主の少年が、マクドールと、瞬きの魔法の類いも使うらしい、風使いの少年と共に、唐突に現れた。

「…………何だ。貴様、どうしてここにいる」

この少年のやる事なす事、突拍子のない事であるのは重々承知していたが、戦の最中にこの騒ぎは何事だ、と、思わずルカは、顔を顰める。

「いいからっ。一寸、一緒に来てっ!」

ムッとした表情になった彼に、少年は有無を言わせなかった。

「ここで、言い合ってる暇はないんだよ」

トランの英雄は、動こうとしなかったルカの腕を強引に掴んで、風使いの少年、ルックに目配せした。

「……行くよ」

ワタワタと慌てている盟主と、厳しい顔をしているマクドールと、事態を飲み込めずにいるルカとを見比べ、ルックは、どうでもいいんだけど騒がないでくれる? と冷たい目で語り、何処となくやる気なさそうに、そのロッドを振った。

ルックの操るロッドと、口の中で呟かれた詠唱に合わせて、彼等を囲む空間が歪む。

ふわりとした、例えようのない浮揚感を感じた後。

閉じてしまっていた瞼を開いたら、そこはもう、ミューズとハイランドの関所に当たる森の中であるのを、ルカは知った。

「じゃあ、後は任せたからっっ!」

何故、この様な場所に己を連れて来たのかの会得が出来ず、辺りを見回しているルカに、少年達はそう言い残し。

又、瞬きの魔法にて揺らいだ空間の向こうに消えてしまう。

「……おいっ!」

揺らいで行く三人の少年に、ルカは怒鳴ったけれど、それは既に遅く。

「ここで俺に、何をしろと…………」

少し離れた所より、火の手が上がっているらしい森の様子を窺って、彼は呻いた。

が、少年達が消えた方角から聞こえて来た、何者かが駆ける音に、悩んでいる暇も頭を抱えている暇もない、とルカは剣を抜く。

「……おい? ルカ、か? そこにいるのは。何やってんだ?」

しかし。

駆けて来た足音の主は、馴染み深いビクトールで。

木立の影より姿現した傭兵に話し掛けられ、彼は剣を引いた。

「あのガキ共に連れて来られて、放り出された」

「……はぁ? 何考えてんだ? あの二人は。……まあ、いい。それよりも、あんたがいるってんなら、今は願ったり叶ったりだ。一寸、付き合え」

何故ここにいるのかの理由を告げたルカに、ビクトールはきょとんと首を傾げ、けれど、丁度良いと彼は、ルカの二の腕を掴んで、再び走り出した。

「一体、何だと云うんだっ!」

傭兵に引き摺られる様に走り出しながら、ルカは声を荒げる。

「レオンのおっさんとな、シュウが一戦交えてんだよっ。あの馬鹿、何を考えてんだか知らねえが、てめえのいる場所に、火、放ちやがった。どうせ、抜け出す方法も用意しちゃいねえだろうってのに。だから、助けに行くんだっ。判ったら、協力しろっっ」

ルカの怒鳴り声に負けぬ大声で、ビクトールが仔細を語った。

「……判った」

告げられた事情に、ルカはさっと顔色を変え。

二の腕を掴んでいたビクトールの手を払い、走る速度を上げた。

抜いたまま、右手に掴んでいた剣を振り、時折出会う、レオンの軍の残党を斬り捨てながら。

ルカはビクトールと共に、森の奥へと進み。