55.少年達の願い act.3
シュウが、一人取った策を知り。
叫ぶ者、困惑する者、苛々と、帰りを待ち侘びる者、と。
人それぞれの様を曝している、森の外へ、ルカとシュウとビクトールの三人は、辿り着いた。
「シュウ兄さんっ!」
無傷、とは言えないまでも、無事だった彼の姿を見付け、他の者など目に入らぬかの様に、アップルが駆け寄る。
「軍師たるものが、そんなに簡単に感情を露にしてどうする」
が、泣きそうに顔を歪めたアップルに、自分は何でもない事をして来た風にシュウは云い。
ほっとした色を露にした盟主へと向き直って。
「申し訳有りませんが。私は少し、休ませて頂きます」
「ほら、行くぜ」
少年を安心させる為の薄い笑みを拵えると、腕を引いたビクトールに促されて彼は、本陣の天幕の一つへと向かった。
──そんなシュウに付き従いつつ。
ルカは、一度だけ、盟主の少年とマクドールを振り返り。
『死んでしまった人はもう、還っては来ないんだよ』
……と云った、あの日、あの時の、少年の言葉を思い出して。
つい、と天を見上げてから、シュウの入った天幕を、自らも潜った。
「シュウ殿っ。随分な馬鹿をなさって…………」
天幕の中に放り込まれるや否や、話を聞き及んでいたのか、待ち構えていたホウアンに組み立て式のベッドに押し込められ、挙げ句説教を始められ、シュウは閉口した。
「顔を合わせる者全員に、馬鹿、と云われる程の事をした覚えはないんだがな……」
「充分、馬鹿です」
だがホウアンは、言い訳がましい態度のシュウに、ぴしゃりと云ってのけ。
「本当に…………。生きていて下さって、良かった……」
治療の手を止め、ほう……と、深い安堵の息を吐いた。
「ホウアンの云う通りだ。レオンのおっさんを嵌める為に、奇策を取ったのが悪いたぁ云わないさ。だがな、シュウ、幾ら何でも、やり方ってのがあるだろう?」
ビクトールも、又。
今告げた言葉の何倍もの苦情を言いたげな雰囲気を醸し出しながら。
ふ……と、息を吐き出し。
「まあ……良かった、よ。……ああ。あんたが、生きててくれてな。──あんただってそう思うだろう? ルカ」
傭兵は、少し離れた所に立ち尽くす、ルカを振り返った。
「……そう、だな……」
他意があった訳でもなく、唯、話を振ったビクトールに呼ばれて、ぴくりとルカは震える。
──彼の脳裏からは。
あの日、あの時の、少年の声と。
シュウが生きていて良かった、と云う、ホウアンとビクトールの言葉と。
燃え盛る森の中に、シュウが一人残ったと告げられた時に逆巻いた、怒りと焦りと苛立ちの感情と。
彼が確かに生きていてくれた事より得られた安堵が、離れなかった。
「…………どうしたよ?」
「いや、何でも……」
捕われた思いに耽る余り、曖昧な言葉を返したルカに、ビクトールが首を傾げて問い掛けたが、ルカはそれを誤魔化す。
「……ホウアン。ビクトール。すまないが、一寸席を外してくれるか」
しかし。
何処か様子のおかしいルカを見遣っていたシュウが、それ程酷くなかった、怪我や火傷の治療が終わったのを見計らって、そう云った。
シュウの申し出に、一瞬、ホウアンとビクトールは訝しげに視線を交わしたけれど、何も云わず、天幕を後にする。
──だから。
二人きりになった、大して厚くもない布で囲われた空間の中。
ルカは、シュウの枕辺へと寄り。
「……シュウ」
ルカ・ブライト、と云う名を捨ててより、初めてはっきりと、眼前の男の名前を呼んで。
その場に、跪いた。