十五年前。
バナーの峠で、グレイモスと戦った時。
毒に犯された少年を、一刻も早く黄金の都へ運ばなければならなかったのに、巨大な魔物に足留めを食らわされたあの時。
その示す意味は未だに判らぬままだけれど、カナタの宿した魂喰らいと、セツナの宿した輝く盾が突然光を帯び、溢れた光は一瞬にして、魔物を消滅させた。
だから、あの時のように、心を込めて、願って、紋章を輝かせれば。
真実の人の想いには、計り知れない力があるから。
ルックの命を救うことだって、叶わなくはない、と。
そう信じて、カナタとセツナの二人は、遺跡でも、ここでも、宿した紋章を輝かせた。
──どうなるのかは判らない。
このやり方が本当に正しいのか、それだって判らない。
けれど、必ず、と。
二人は願いを続けた。
どういう心境の変化なのか、加担をすると言ってくれた、この大地に生まれた三人の英雄の力も借りて。
唯、ひたすらに。
────カナタの口癖の一つに、運命というものは、甘受は出来ぬけれど受け止めることは出来る、という台詞がある。
大分昔から、運命には二つ類いがあるのを知っているから、彼は、その口癖を良く舌の根に乗せる。
……例えば、カナタ・マクドールという存在が、かつての赤月帝国の常勝将軍の息子として生まれたこと。
例えば、セツナという存在が、ハイランドの街キャロでゲンカクに拾われたこと。
例えば、ルックという存在が、真の紋章の『器』としてこの世に生を受けたこと。
それは、彼等自身には、どうしようもないこと。
足掻いてみても、微塵も変わらぬ事実であり過去。
……それをカナタは、受け止められる運命、と呼ぶ。
受け止められる運命によって生まれ、歩き出した己が辿る道を、甘受は出来ぬ運命、と彼は言う。
受け止められる、若しくは受け止めなくてはならない運命に従って、人は歩き出すけれど。
その先の『運命』──命を運ぶ先を決めるのは、己自身だ、と。
そして、セツナも、カナタの口癖の示す意味を知っている。
充分過ぎる程に。
故に、彼等は。
運命など、所詮運命であって。
紋章如きに定められるものではないと、そう確信して。
せめて、懐かしい、が今も尚己達の友である者が、本当の意味で己の命を運ぶ先を決められるようにと、紋章を輝かせ続けた。
友──ルックが、涙を零して大きく息を吸った後も。
周囲を彩るヤザ平原の緑が、淡い光源に包まれて霞む程に。
辺りを霞ませる程に眩い、『淡い』光が掻き消える寸前。
一人の、盲た女魔法使いの後ろ姿を見たような気もしたが。
蜃気楼のような魔法使いの姿を見た全ての者達が、それが夢であったのか、現実であったのかの判断を付けられぬ内に、緑の草の上に次々と倒れた。
一帯に光が溢れ出した頃より途絶えていた風が再び戻り、静寂が帰り。
「……ルック君……? 皆……?」
「何が……どう、なって……?」
光の眩さに思わず目を閉じていたビッキー、ルックを支えたまま祈りの為に瞳閉ざしていたフッチ、その二人は恐る恐る、倒れた人々を見回し。