──Epilogue──

何時だって、どんな時だって、傍迷惑に振り回した相手だった。

時には惨く接して、八つ当たりの相手にもした。

困らせ、男泣きさせ、落ち込ませ、怒らせ、手間ばかりを掛けさせた二人。

けれども、本当は、実の兄達の如くに想っていた、ビクトールとフリック。

どんな目に遭わせても、自分達を、弟分だから、と言って、弟のようだ、と言って、想い続けてくれた、大切な相手。

────だから、二人が逝った時。

カナタも、セツナも、瞼を閉ざした。

二十七年前より、カナタを少年の姿のまま留めさせる、宿主に不老の呪いという名の『恩恵』を授ける真の紋章──魂喰らいの紋章、それが、彼等の魂をどう目するのか、知りたくなかった。

ビクトールとフリックの、魂の行方を知りたくなかった。

を閉ざし、耳を塞ごうとも、己が紋章が彼等の魂を喰らったか否か、カナタにだけは否応なく悟れてしまうけれど、それでも。

彼等は瞳を閉ざし、耳を塞ぎ、セツナは、カナタの紋章同様、宿主である彼に『恩恵』を授ける真の紋章──始まりの紋章、それを僅か輝かせた。

逝ってしまった二人の為に。

そして、彼等の魂の行方を、魂喰らいの理を、決して言葉にはしようとしないカナタの為に。

魂の行方など判らない、魂喰らいの理など知らない、唯、鎮魂の為にこうするのだ、と、そんな振りをして。

「……ビクトールさん……。フリックさん……っっ」

────それより、数拍程の間が経って、瞼を開いた途端。

セツナは、冷たい雪の上にペタリと座り込んで、ほろほろと泣き始めた。

「セツナ……」

「…………っっ。カナタさん……っ。二人が……、ビクトールさんとフリックさんが、死んじゃった……っ!」

「ああ。逝ってしまった。最期まで、嫌がっていた腐れ縁で繋がれたまま」

己にしがみ付き哭泣するセツナを抱き締め、彼の、柔らかい薄茶の髪に、カナタは頬を埋める。

「カナタさん……。カナタさん…………っっっ」

「二人が、安らかであることを、願おう、セツナ」

「はい…………」

何時までも、セツナは哭し続け、カナタは、泣き濡れるだけの彼を抱き締めつつ、己達の足跡のみが刻まれた純白の野を、瞳一杯に収め続けて──やがて。

セツナは泣き叫ぶのを止め、カナタは面を持ち上げ、二人は、ビクトールとフリックの亡骸に背を向け、野を引き返し始めた。

年端もいかぬ幼子のように、手を引かれ、俯き、トボトボと歩くセツナを見下ろし、カナタは一人振り返った。

雪に隠れていく亡骸達を見返り、己が右手へ眼差しを流し、彼は、傍らの彼にも届かない、小さな小さな、囁きを洩らす。

「……それが、二人の望みなら」

そうして、カナタは天を振り仰ぎ、降りしきる雪を見開いた瞳でも受け止め、音はならない言葉を、唇のみで。

それが、二人の望みなら。

命の運ばれる先で、今ひと度の『夢』を、僕は。

End

後書きに代えて

このシリーズのビクトールとフリックの、その人生最期の刹那の話。

本当に本当に、最後まで、カナタとセツナを出そうか止めようか悩みましたが、結局出しました。

傭兵コンビにとって、天魁星コンビが大切な弟達だったように、カナタとセツナにとって、二人は大切な人達だったから、私の中の妄想がWリーダーを引っ張って来てしまった。

──私は、死にネタというものを殆ど書きません。

こんなに、ガッツリな死にネタ書いたのは、恐らく初めてです。

書いた当人にも、痛恨の一撃でした。

でも、書きたかった。唯々、書きたかった。二人の、人生の最期を。

本当のことを言うと、この数年、ずっと、この話を書きたいと思っていました。

ビクトールとフリックの人生の最期と、カナタとセツナを愛おしんでくれた、カナタとセツナも大切に想っていた傭兵達であろうとも、二人を置いて逝くのだと。見果てぬ夢を見ながら。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。