宴の喧噪が、最高潮となった夜半近く。

「……あー……。降参……」

「俺も……。うぇ…………」

「残念ながら、あっしも」

かなりの人間が挑戦した、『誰が一番多く、酒を嚥下することが出来るか勝負』の輪の中から、船乗りのアマダと、シーナと、渡世人のリキマルが脱落した。

「あたいも、もう勘弁……」

「…………俺も……」

次に脱落したのは、ティント市付近の山野で賊をしていた、ロウエンとギジムの二人で。

「うーん、予想通りの顔触れ……」

宴の始まりからもう数刻が経っているのに、未だに呑むことを止めない『挑戦者』達を眺めて、己はジュースを舐めながら、勝負の成り行きを見守っていたセツナが、感嘆の声を吐いた。

「そうみたいだね」

セツナの隣では、勝負の挑戦者であるにも拘らず、けろりとした顔のカナタが、やはり居並んだ面子を眺め、

「それ程は呑んでいないだろう?」

「未だ未だ、これからさ」

セツナとカナタのやり取りを聞き付けた、トラン共和国の女将軍バレリアと、バレリアとは様々な意味で『朋』の女剣士アニタが、あっさりと言った。

「流石にそろそろ、腹が重たくはあるがな。──ほら」

「んー。──水腹は水腹だな、確かに」

更にその横では、ビクトールとフリックが、注しつ注されつを繰り広げ。

「意外性のある奴は、残らなかったなあ……」

「ですねえ……」

タイ・ホーとヤム・クーの二人は、淡々と杯を傾け。

「貴方も、強いのねえ」

「……別に」

「恍けずとも良かろう? 御主」

旅芸人一座の長のリィナと吸血鬼の始祖シエラに、ルックは挟まれていた。

「ルック、両手に華だねー」

「うるさいよ。──お酒も飲めないようなお子様は、もう寝れば?」

──そんな面々を、くるり見渡したセツナがからかいを言えば、尖った声がルックから返され、

「どーせ、僕は呑めませんよーだ。……匂いだけで気持ち悪いもん」

「平気? セツナ。一寸、風に当たりに行く?」

「でも、マクドールさん、勝負は?」

「どうだっていいよ、そんなこと」

下戸故に、そろそろ匂いだけで倒れそう、と立ち上がったセツナに、カナタが付き合った。

「帰って来なくてもいいぞー。一〇〇〇ポッチ賭かってっからなー」

あー、お酒臭い、とぼやきながら去って行くセツナに付き添うカナタを、ビクトールがヒラヒラ手を振って見送る。

「あいつがいると、勝負にならないからな。化け物並みに呑みやがる……」

「確かにな。……解放戦争の頃から、強かったからなあ、あいつ」

「…………でも、何時だったか……。あの頃、クレオさんが不思議そうに言ってましたよ。『確かに強い家系だけど、坊ちゃん、あんなにお酒強かったかしら?』って。一度、友達とこっそり呑んで酔っ払って帰って来て、オヤジさんとかグレミオさんとかに、バレないようにするのが大変だったのに、とか何とか……。──何時の間に、強くなったんでしょうねえ、カナタさん」

「あんた達が鍛えたから、強くなったんじゃないの?」

そうして。

フリックやタイ・ホーやヤム・クーやルックは、懐かしい三年前の話を始め、

「シエラさん。こちらのワインも、如何?」

「そうじゃな。良さそうじゃ」

「バレリア、あんたはどうする?」

「そう言うアニタ、お前は?」

リィナとシエラとアニタとバレリアは、女はやはり女同士、と一塊になって呑み続けた。

二階の議場を後にして階段を昇り、三階の空中庭園へと続く扉を開いたら、昼間の内は、元赤月帝国貴族のシモーヌとヴァンサンが年中行事の茶会をしているテーブル辺りに、テレーズとシンが寄り添うように並んで立って月を見上げている姿を見付け、そっと、セツナとカナタは開いた扉を閉ざした。

「本当、仲良しさんですよね」

「…………まあ、ね」

立派な大人の男であるシンと、立派な大人の女性であるテレーズが、自分達以外誰もいない、花咲き乱れる庭園で寄り添うようにしている姿をその目で見ても尚、『仲良しさん』と表現出来るセツナに、一種の『偉大さ』を感じつつ、はは……、とカナタは笑う。

「何か、お邪魔したら悪いっぽい雰囲気でしたからー。……じゃあ、定番ですけど、屋上行きましょっか」

だがセツナは、カナタの乾いた笑いも気にせず、一度己の部屋へ寄り、布巾で覆われている大きな盆を持って、屋上へと向かった。

「それは?」

「ああ、宴会始まる前に分けといたんです。フェザーとかムクムク達とかも食べられそうな物。ジークフリードには先にあげて来たんですけど。ムクムク達、何処にいるか判らなかったし、フェザーは夜でも起きてるから、後でもいいかー、って思って」

道すがら、盆の上の正体は何だとカナタが問えば、にこっとセツナは笑って、『動物達』の宴会料理、と答え。

「フェザーっ。ムクムク達もいるー? 一緒にお茶しよー、こんな時間だけどー」

パン! と威勢良く屋上の扉を開け放った彼は、常にそこにいるグリフォンのフェザーと、大鳥であるフェザーの傍に固まって眠ろうとしていたムクムク達に近寄って行った。