フェザーも、ムクムク達も、何処となく眠た気な目をしながらも、はい、とセツナが給した宴の料理を、嬉しそうに食べ始めた。
「マクドールさん、お茶にします? それとも、未だ呑みます? お茶もお酒も、持って来ましたよ」
夜食になってしまった料理を食べている彼等を眺めながらセツナは、ハイ・ヨーにねだって作って貰ったらしい薄いクッキーを齧りながら自分の為にお茶を淹れ、どうします? とカナタには尋ねた。
「ん? お茶貰おうかな。お酒よりも、セツナが淹れてくれるお茶の方が美味しいしね」
すればカナタは、酒精よりも茶がいい、と座り込んだ屋上の壁に緩く寄り掛かった。
「そうなんですか? お酒に強い人達は、お茶なんかよりお酒の方が美味しいって、言ってましたけど。マクドールさんは違うんですか? あんなに、お酒強いのに」
故に、行儀悪くクッキーを銜えたまま、カナタに茶碗を差し出し、セツナはペフっと、フェザーの体に凭れた。
「不味い、とは言わない。まあ、客観的に言えば、不味い物じゃないよ。呑める者にとってはね。付き合いに困らない程度嗜めて、損は無いものだ。飲み方さえ間違えなければ楽しくもなれるし、心地良くもなれるし、ひと時、憂さも晴らせる」
「随分、便利なものですね、お酒って」
「全部が全部、って訳でもないけれどね。……そう言えば、昔。僕の父はこんなこと言ってたっけ。酒という飲み物程、値段と味の釣り合いが取れている物はない、って」
「へえ……。マクドールさんの、お父さんが」
「うん。昔、一緒に呑んだ時にね。そんなこと言われた。……僕も、その通りだな、と思う。懐具合が許せばの話だけど。値段と味の釣り合いが取れた美味しいお酒を呑むことは、確かに幸せなことなんだろうな、と思わなくはないかな」
「ふうん……。お酒って、僕には不味い飲み物でしかないですけど。何か、そうやって聞かされると、僕も一寸は呑めたらいいな、って思えて来ちゃいます」
静かに茶を飲み下しながらカナタが語ることに耳を傾けている分には、お酒って、そんなに悪いものじゃないのかな、と思えそうだったから。膝に抱えたムクムクと一緒に、ポリポリ、クッキーを齧りつつ、そっかぁ……とセツナは、カナタの為に持って来た酒瓶へと目をやった。
「でも別に、無理して呑む程の物じゃないよ?」
……そのまま放っておいたら、酒精を手に取りそうな雰囲気をセツナが漂わせたので、床に置かれた盆の上の酒瓶の口を摘み上げ、トン……と傍らへ回収して、カナタは笑んでみせた。
「そりゃ、無理してまで……って物でもないんでしょうけど。マクドールさんとか、ビクトールさんやフリックさん達とか。このお城には、お酒の強い人、結構多いのに。僕は一杯だって呑めないんですもん。時々は、羨ましいなー、って思うことだってありますよ。お酒呑んでる皆に混ざれたら、楽しいのかなー、とかって」
自分から遠ざけられた酒瓶を恨みがまし気に眺め、むー、とセツナは唇を尖らせる。
「お酒も呑めないお子様って、ルックとかには言われるし」
「……まあまあ。どんなに頑張って試してみたって、美味しいと思えないなら、セツナにとってはお酒なんて、何処までも不味い物でしかないんだろうし。酔っ払ってみたって、必ずしも楽しい訳じゃないし。……酔えないのも、楽しくないし」
だからカナタは、拗ね始める兆候を見せ出したセツナを宥める為に、言葉を重ねたが。
「………………酔えない?」
宥められながらもセツナは、カナタの言い回しに引っ掛かりを感じ、首を傾げた。
「……ん? 何が?」
「え、何が、って……。マクドールさん、今……──」
だが、彼のその訝しみをカナタは、さらりと流してしまって。誤摩化されまいとセツナは身を乗り出したけれど。
丁度その時、地上から、彼等が今いる屋上まで届く程盛大な、『酔っ払い達』の馬鹿騒ぎが届いたので。
「誰か、中庭で騒いでるね」
「……みたいですね。──ん、もーーーっ! 何も、外に出てまで騒がなくたっていいのにーーっ! シュウさんに叱られても知らないからーーっ!」
バッとセツナは立ち上がって、誠傍迷惑な真夜中の騒ぎを鎮めるべく、駆け出して行った。
「あ、セツナ、それよ…………──。あーあ、行っちゃった……」
黙らせて来ますっ! と駆け出したセツナを、カナタは声で追い掛けたけれど、本当に素早く屋上を出て行ってしまったセツナにそれは届かなくて、やれやれ……とカナタも又、ゆるりと腰を上げた。
そうして、彼は。
人語を解せるが故に、セツナの訝しみ、カナタの態度、それらに首を傾げたフェザーへ、「気にしちゃ駄目だよ?」とでも言う風に、にこり笑い掛け。
「フェザー? 一寸下まで、連れて行ってくれないかい? セツナ、追い掛けないといけないし。真夜中に馬鹿騒ぎをするような連中は、懲らしめないと、だし。……いいかな?」
懐から取り出した武術扇を、ポンと左手の中で打ち鳴らして、カナタの望みに応えるべく、ばさりと翼を広げたグリフォンの背中に飛び乗った。