何処か、遠い所で。
何かの唸り声のような、そんな物が、微かに聞こえた気がした。
「ソウル、イーター」
詠唱の終わり、静かに、囁く程のトーンで、魂喰らいのあだ名をカナタが呼べば。
空耳かと思える程遠かった、何かの唸り声のようなそれは、一際高まって、辺りを被っていた土煙を吹き飛ばした。
カナタを『一点』として沸き上がったかのように、土煙を吹き飛ばした『力』は、方円の広がりを見せ、周囲を被い始める。
何処までも、ひたすらに広がって行く、魂喰らいの『力』は。
直ぐさま、冥い光と風を呼んで、漆黒の霧のように一帯に漂い。
眼前の、森をも飲み込んだ。
皇国の兵士も。
森の緑も、動物達の息遣いも。
何一つとして『分け隔てる』ことなく、魂喰らいは包み込む。
────カナタは、それを。
何の感慨もなく、右手を掲げたまま、見遣っていた。
人々に見えているのか否か、そんなことは彼にも判らないけれど、少なくとも、彼の目にははっきりと映る、数名の、巨大な鎌を振り被った『死出の遣い』が、森の中に潜む命を、静かに狩り取って行く姿にも。
彼は、何の揺らめきも、見せることはなかった。
『死出の遣い』の『舞踏』が費え。
一帯に、生きとし生けるモノの波動さえない、静寂が漂っても。
カナタの表情は、何一つとして変わらず。
掲げていた右手を、すっ……と下ろして、彼は。
「…………………………不様、だな」
己に対しての嘲りのみをくれると。
踵を返し、『戦場だった場所』へと、呆気無く、背を向けた。
何も彼も、『どうでもいいこと』であるのに変わりはなくて。
唯、ひたすらに。
彼が無事であるならば、それで良くて。
彼が生きているならば、それで良くて。
…………でも。
不様だ。
余りにも、不様過ぎる。
一歩、踏み込み過ぎた所為で、釦を掛け違えてしまったように、『不協和音』が生まれても、それは僕には関係ない。
何も彼も、僕にとっては、『どうでもいいこと』でしかないから。
同盟軍がどうなろうと、僕には関係ない。
僕の『故郷』がどうなろうと、もう、僕には関係ない。
……踏み込み過ぎぬように、最低限の分別を付けて来たのは、彼の為だ。
唯、それだけ。
──僕は、こうすることを、欠片も厭わない。
セツナの命が削られる、と云う『不安』と秤に掛ければ。
分別がどうのこうの、区別がどうのこうの。
そんなこと、塵にも等しい。
もう一度、時が巻き戻って、同じ『時』を迎え、やり直せ、と云われたとしても。
僕はきっと、同じ道を選ぶ。
だから。
これまで僕がやり過ごして来た、数多の戦い同様。
此度の戦いも又、嘆く必要も、悔やむ必要も、何処にも有りはしない。
デュナン湖の畔の城に戻った時、負の何かが齎されたとしても、どうとでもしてみせる。
僕の内に、全ての『覚悟』は、常にある。
でも、それでも。
……………………不様だ。