「えー、何でだよーーっ」

「別に、意地悪で云ってるんじゃないよ。……それがね、何かね、これ……変な味がするから……」

カナタには食わせて、俺には食わせないのか、と言いたげな顔になったシーナへ、セツナは。

駄目だ、と云った理由を告げる。

「……不味いって訳?」

「不味いって云うのとは一寸違うんだけど……。──何か……変……」

「あ、本当だ」

何か、変な味がする、と。

うえ……と云う顔して、セツナは湯飲みの中の茶を飲み干し。

セツナに続いて、肉饅を口にしていたカナタは、立ち上がり、部屋の隅へ向かうと、茶器の揃えがあった棚の上から懐紙を取り上げ、含んでいた物を戻した。

「何だろう……。何か、変な調味料でも、入ってるのかな。ナナミのお料理とは又違う、別の意味で強烈な味…………」

「言えてる。……少し、飲み込んでしまったけれど、それだけでも、舌の上に味が残る……」

「そうなのか……?」

……だから、手を付けない方がいいよ、と。

期待外れな顔をした、セツナとカナタに口々に云われ、シーナは、肉饅を見遣る目付きを変えた。

「…………あ」

こんなに旨そうなのに、と。

肉饅を眺めながら、シーナがそんな顔つきをした時。

セツナが、呟きを洩らした。

そうして、彼は。

途端に顔色を変え、ずるっ……と、座っていた椅子の上から、床へと崩れ落ちる。

「セツナっ!?」

ガターン……と、強い音を放って床に倒れたセツナに、カナタが駆け寄った。

「まさか、あの味……っ。──ルックっ、ホウアン先生をっ! シーナ、水っ!」

駆け寄り、跪き、セツナを抱き抱え。

彼の顔色が、見る間に悪くなっていくのを察して、カナタが声高に叫んだ。

それを受け、ルックは無言のまま、瞬きの魔法を駆使し、姿を消し。

シーナは慌てた風に、部屋に設えの水指しを運ぶ。

「セツナ、口開いて。セツナっ!」

一方カナタは、両の手袋を外し、素手になると、無理矢理、セツナの口をこじ開け、強引に、指先を喉の奥まで差し込み、その場で嘔吐させ、シーナが運んで来た水指しの水を、セツナの口の中に流し込んだ。

「シーナ、セツナ、吐かせて……っ……」

そこまでして、カナタは、シーナへとセツナの身を預け、己も又その場で、胃の臓の中身を無理矢理吐き出す。

「まさか……毒……?」

「た……ぶん……っ」

苦し気に、喉を鳴らして吐瀉したカナタと、呻くセツナを見比べて、低く、シーナが呟けば。

己の為の、基本的な処置を終えたカナタが答えた。

「……何の毒かは判らないけれど……きっと……。でも……舌が痺れるような刺激があったから……もしかしたら……」

セツナと違い、飲み下しはしなかったものの。

多少は毒物を取り込んでしまったのだろう、小刻みに体を震わせながら。

それでもカナタはシーナより、セツナを引き取って、抱き抱えた。

「盟主殿っ!?」

と、そこへ、ルックに連れられたホウアンが、瞬きの魔法の向こうより姿を見せて。

「何が……?」

「それが…………──

セツナの容態を診始めたホウアンに、カナタが説明を始めた。

「どんな味でした?」

「苦い。苦くて、痺れるような……。少し、ハッカの味にも近くて……。馬銭子まちんしじゃないかと……」

「馬銭子…………」

説明を受け、嫌な味がした、と云う話から、その味の如何を尋ね。

多分……と、カナタの口から出た、馬銭子、と云う単語に、ホウアンは、それはそれは厳しい顔付きをする。

「シーナさん、盟主殿を寝台へ。マクドール殿、貴方も……ああ、ここで……と云う訳には……」

──僕なら、大丈夫……」

もしも、二人が口にした毒が、馬銭子ならば大問題だ、と、ホウアンはシーナに、セツナを運ぶことを命じ、カナタには、安静を伝えようとしたが。

蹌踉めきながらもカナタは、セツナを抱えたまま立ち上がって、寝台へと近付き、セツナを横たえた。

「駄目ですっ! 大丈夫なんて、そんなこと、ある訳ないでしょうっ!」

「平気、だから…………」

そんなカナタを、高い声でホウアンは制したけれど、激しい痙攣を起こし始めたセツナを、そっと寝かせ、にこっと振り返り。

…………だが、次の瞬間、カナタも又、そのまま床へと崩れ落ちた。

※ 馬銭子=ストリキニーネ。