目安箱の中に、メイザースが放り込んだ手紙の内容と、ナナミがビッキーから聞き及んだと云う話を鑑みた結果。
恐らく、あの二人が実験に勤しむ為に向かっただろう場所は、デュナン湖に浮かぶ小島の一つだろうと踏み。
ならば、船、と。
高が実験で、島一つ吹き飛ばされては堪らない、否、島が吹き飛ぶだけなら未だしも、この本拠地に、何らかの被害でも齎された日には、目も当てられない処の騒ぎじゃない、との想いに駆られたセツナは、カナタを煽り立て、船着き場を目指した。
「タイ・ホーさーーーーーーんっっっ!」
本拠地の中を駆け抜け、船着き場の桟橋を抜け。
そこにて、ヤム・クーと二人、世間話か何かをしていたらしいタイ・ホーを見付けてセツナは、大声を張り上げる。
「……おう? 何だ? どうしたセツナ。カナタも。何か用かい?」
「うんっ! あのね、メイザースさん達見なかった? メイザースさんと、ビッキーっ!」
「あ? メイザースとビッキー? 変な組み合わせだな、おい。………………さて……俺は見掛けた覚えはないが……。ヤム・クー、お前は?」
駆け寄って来たセツナの姿を見止め、他愛無い話を切り上げ、タイ・ホーは振り返り。
息せき切って尋ねられたことへ、心当たりがない、と答えた。
「さぁて…………。覚え、ありませんねえ……」
そして、セツナを代弁するように、タイ・ホーに問われたヤム・クーも、その二人を見掛けた覚えはない、と首を捻り。
「そっか……。有り難う、二人共」
「悪いね、邪魔して。────ってことは、船じゃないのか。ああ、そうだ、ルックに聴けば、何か判るかも」
「ああ、そうですねっ! そう云えば朝、ルック、ビッキーに何か、誘われてましたもんねっ! 行きましょ、マクドールさんっっ」
二人の漁師の回答より、自分達の過ちを知って二人は、又、本拠地の中へと駆け出した。
……と言うよりは、又も、駆け出したセツナの後をカナタが追う形で、二人は消えた。
「…………何だ? ありゃ。何かの祭でもすんのか?」
「さあ……。でも、祭、ってのは違うと思いますよ」
どたどたと、桟橋を駆けて行く二人の背中を見送りつつ、タイ・ホーとヤム・クーは、呑気な会話を交わしたけれど。
漁師達の訝しみに、これこれこうで……との答えは返らず。
「ルックーーーーーーーーっっっっ!」
タイ・ホー達を置き去りに、本拠地の中へと戻って。
セツナとカナタは、ルックがいる筈の、約束の石版前へと辿り着いた。
「…………何? 何か用?」
──辿り着いた場所には、思惑通り、ルックがおり。
声高に呼び掛ければ、何時も通りの答えを返して来たから。
「あのねっ、ビッキーとメイザースさん、何処行ったか知らないっ!?」
駆け続けた勢いを借りてセツナは、ずいっとルックに詰め寄った。
「……ああ。もしかして、あの話? だったら、知ってるよ。何しようとしてるか、ってのも」
「ホントっ?」
「ビッキーが言ってた、下らない実験とやら、だろう?」
すればルックはあっさりと、知っている、と答えた。
「そう、それっ! 何するって言ってた? 何処行くって言ってた?」
「何……って、だから、実験。魔法の実験がしたいらしいよ。……お題目は、遠距離から効率良く敵を攻撃する方法、とか何とかって言ってた気がするけど」
「遠距離から効率良く?」
と、カナタが、ルックが教えてくれたことに、ふん? と柳眉を寄せ。
「確か、メイザースが、永遠の宿敵の、クロウリーを倒す為に開発したとか何とか云う、威力『だけ』は御墨付きの『破壊呪』唱えて、それが発動する瞬間に、ビッキーの瞬きの魔法で、呪文の効力だけを転位させることが出来るかどうか……って言ってたと思うけど」
……ルックは、唯、淡々と。
朝、ビッキーに聞かされた、彼等の実験の内容を、カナタの顔を眺めながら語った。
「………………成程ねえ。発想は、悪くない気がする」
聞かされた、その話に。
顰めた柳眉を戻しながら、ふうん……とカナタは感心を示したが。
「いえ、マクドールさん、感心してる場合じゃないと思います。多分、問題、そこじゃないです。……『あの』ビッキーですよ? しょっちゅう、僕達のこと、間違った場所に飛ばしてくれるビッキーですよ? バナーの村に送ってね、ってお願いして、僕が何度、ラダトだったり風の洞窟だったりに飛ばされたか知ってます? ……って、ルックっ! どーしてそのこと、教えてくれなかったのーーーーーーっ!」
セツナは一度冷静に、カナタの感心へと突っ込みをした後。
そんな場合じゃなかったと、ルックを見遣り、文句を垂れ出した。
「…………朝、僕がビッキーにしつこく絡まれてた時、現場を見てたくせに、あっさり見捨てたのは何処の誰だっけ?」
でも、ルックは。
朝、自分とビッキーがやり合っている現場を、見て見ぬ振りした二人への仕返し、とばかりに、しれっと冷たく言い放ち、そっぽを向いて。
「ルックの、根性曲がりーーーーーーっ! だから、シュウさんとタメ張るくらい、性格悪いって言われちゃうんだからねっ!」
有らぬ方を向いたルック法衣の裾を、ぎゅむっと握ってセツナは、盛大な悪態を吐き。
「……根性、曲がり…………? ……セツナ。君、今、お馬鹿の分際で、僕のこと、根性曲がりって言った?」
「ホントのことだもんっ!」
「…………まあまあ、セツナも、ルックも落ち着いて。……で? ルック。あの二人、何処へ行くって言ってた?」
セツナの悪態に、ヒクリと眦を引き攣らせたルックと、喚くこと止めないセツナとの間に生まれそうになった、一触即発の事態をカナタが留め。
「さあね。湖の畔の、何処かにはいるんじゃない? 船着き場の方にいないんなら、この城を出て、湖の岸辺沿いに、クスクスの街目指して歩いたら、見つかると思うけど」
流石に、本当に本拠地が吹き飛ぶような事態にでもなったら堪らない、とでも、ルックとて思ったのだろう。
カナタの問いに、根性曲がりな風の魔法使いは、一応、正解を教えた。
「判った。邪魔したね、ルック。……ほら、行くよ、セツナ」
「はいっ。──んもう、ルックの苛めっ子ーーーーーーっ!」
正解を聴き終え。
カナタはセツナの襟首を引っ付かんで、城の正門方向へと向き直り。
セツナはカナタに引き摺られながら、もう一度、ルックへの悪態を吐き。
「あー、うるさい」
ルックは、バタバタと城を出て行く二人の背へ、ぼそっと溜息を吐いた。