昇降の箱がやって来るとバネの仕掛けで鳴るように出来ているらしい、チン、という軽い音がして。
乗り込む為のそれがやって来たと、カナタとセツナは知った。
「…………っと。……皆でお揃いで、だね」
「あれ? ナナミ。それに、アイリ達も。どうしたの? 又、お茶会?」
音がして、一拍置いて、扉が開き。
乗り込もうとした途端、ずらっと六名の少女が居並んでいるのに気付いて、カナタはほんの僅か動きを止め掛け、が、直ぐさま微笑んで。セツナは首を傾げる。
「あっ! いた、マクドールさん、良かった!」
「一寸、私達に付き合って欲しいんです、マクドールさん!」
「あのね、教えて欲しいことがあるのっ」
そんな反応を示した二人へ、ナナミとニナと、ミリーが詰め寄って。
「僕に、教えて欲しいこと?」
「マクドールさんに、何教わるの?」
「いいから、いいから。カナタさん、一寸僕達に付き合ってよ」
「そうそう。カナタさんになら、多分簡単なことだから!」
「ほら、セツナも」
テンガアールとメグとアイリは、きょとん、となったカナタとセツナを、それぞれ『えれべーたー』の中へと引っ張り込んだ。
「よーし! じゃあ、図書館の、自習室行こうっっ」
彼等二人を、強引に、が首尾良く引き摺り込んだのを見計らって、せっかちな仕草でナナミが、箱の扉を閉める。
「え、ちょ……。一寸待って、ナナミっ!」
そんな義姉をセツナが、あっ! と声張り上げて制したが、それはもう、時既に遅し、という奴で。
一階目指して降り始めた『えれべーたー』は、ガクン……、と激しい音と振動を立てて、四階と三階の間で止まってしまった。
「え、何で? 何で? 何がどうしてどうなったのっっ?」
「あーーもーーーーっ。だから待ってって言ったのに、ナナミってばっ! 忘れちゃった? この『えれべーたー』は、六人しか乗れないのっ! でも今これには、八人乗ってるのっ! アダリーさんに、六人までしか乗っちゃ駄目だって、あれ程言われたのにーーーーっ!」
何故、『乗り物』が動きを止めてしまったのか、その理由が思い至れなかったらしいナナミは、大慌てで叫びを放ったが、セツナは、溜息付き付き呆れ顔をして、義姉に文句をぶつけた。
「えー、そんなこと言われたってー。でもさ、でもさ、ビクトールさんとかフリックさんとかの、大人の男の人が六人乗ったって、ちゃんと動くんでしょ? これ。大人の男の人六人分の重さと、私達八人分の重さだったら、私達の方が軽いと思うけどなあ……」
「………………誰か、重い、とか……」
「……何か言った? セツナ」
「……ううん、何でもないよ、ナナミ。──ホントに、もう…………」
けれどナナミは、私達は悪くない、の態度を貫き。
滅多なことでは義姉に勝てぬセツナは、ナナミへ苦情をぶつけることに諦めを付けて、ペトっと、その場に寝転がらんばかりに伏せ、聞き耳を立てた。
「どう? 何か聞こえる? セツナ」
「えーーーとですね……。えっと……。──んと……、アダリーさんが、何か叫んでる声が聞こえます。えれべーたーばあばりあん、がどうたらこうたらーって。定員がどうのこうの、ってことも、アダリーさん、叫んでるっぽいです。だから、多分……」
「……君が何を言おうとしてるのか、大体想像は付くけど、一応聞いてあげる。多分、何?」
「多分、完璧に止まっちゃったんだと思います、えれべーたー」
「…………だろうね。──さて、そう来たのなら。どうやって、ここから抜け出すか考えようか」
ぴっとりと、床に耳を押し付けて、箱の伝う空洞の底より聞こえてきていたアダリーの悲鳴に耳を傾け、今直ぐには『えれべーたー』は動かないらしいとセツナが告げれば、ふむ、と軽く腕を組んで、でも前向きに、どうするべきかな、とカナタは思案を始めた。
「……この箱の天井か床蹴破って、これ吊ってる鎖伝って、何処かの階まで行くのは駄目ですか? 扉開かないかも知れませんけど、一番下まで降りれば、何とかなると、僕思いますけど……」
「そうだねえ……。それが手っ取り早いとは思うけど。僕やセツナには楽勝の芸当でも、女の子には難しいんじゃないかな」
「あー、そうですねえ……。そっか……。うーん、うーん、うーん」
「何をどうするにしても、こんな所からの脱出行為は、女性には大変そうだからねえ……」
この事態の打開を考え始めたカナタに倣って、セツナも又、彼の思案に嘴を突っ込み。
あーだこーだ、二人は、取れそうな方法を編み出しては打ち消し、編み出しては打ち消し、として。
結局、狭い箱の中に閉じ込められてしまったらしい今、それでも適えられそうな数少ない手段は、自分達には出来ることでも、女性陣には無理そうだ、との結論に達し。
「取り敢えず、大人しく救助を待ってみよう。もしかしたら、直ぐに動き出すかも知れない。早々簡単には、落ちそうもないしね」
「そですね。そうしましょっか」
あっさり、状況を受け入れた二人は、ナナミ達を促して、狭い箱の床の上に、わらわらと、が箱が揺らがぬように、そっと腰を下ろした。
「もしも、このまま夜になっちゃったら、この中ってどうなるのかなあ……」
箱の天井の四隅に嵌まっている、で出来た細かい格子状の板が、本拠地の屋根に設えられた嵌め殺しの天窓より下りる明かりを取り込んでいるから、真昼である今は、密室であるこの箱も、充分視界が利く程度、明るくはあるけれど。
夜になってもここから出られなかったらと、ニナが天井を見上げて、ボソリ呟いた。
「大丈夫だよぉ。きっと、それまでには誰かが助けてくれるよ」
僅か、不安そうな色を見せた彼女に、ナナミは明るく言った。
「ううう、狭いよう……」
「どうして、たったこれだけのことで止まるのよ、このえれべーたーっ」
二人の会話を他所に、ミリーとメグは、何処か的外れなことを告げ。
「今更何言ってみたって仕方ないだろ。こうなっちまったんだから」
アイリは、やれやれ、と頭の後ろで腕を組んだ。
「そうだね。アイリちゃんの言う通り、もうどうしようもないし。……折角だからさ、気を紛らわす為にも、僕達がカナタさんのこと捜してた理由の話でもしようよ」
そんなアイリに同調するように、テンガアールが言い出して。
「……理由?」
「あ、そうそう。何? ナナミ達が、マクドールさんのこと捜してた理由って」
ま、何がどうなっても何とかなるでしょ、何とかするし、と、のほほん構えていたカナタとセツナは、少女達を向き直り。
それを切っ掛けに、六人の少女は口々に、魔術や魔法に付いて、カナタの教えを乞いたかったのだ、と語った。