父上を、この手で倒してから。

僕は余り、眠ることがなくなった。

悪夢を見るようになった、とか。

贖罪の念が、僕を眠らせなくなった、とか。

そう云った理由ではなく。

自らの意志で僕は、寝食を惜しむようになった。

──唯々。

父上をも失ってしまった僕は、内心の焦りに突き動かされて、全てを駆け抜けようとしていた。

指針を示してくれた、オデッサは遠に亡く。

ソニエールでグレミオは『消え』。

父上の温もりは、この手より零れ落ちて。

もう、あの時の僕に残されていたのは、テッド唯一人だった。

だから。

死ぬ筈はないと、きっと生きていると、信じたテッドを……テッドだけは……何としてでも、己の元に、取り返したかった。

……その為に。

その為、だけに。

僕は、寝食をも惜しんだ。

眠っている暇なんて、僕にはなかった。

ウィンディの手からテッドを取り戻す為に、僕は、それまで以上に、強く在らねばならなかったから。

それまでも、戦う為に強くならなければ、と、カイ師匠に無理を云って、稽古を付けて貰ったり、真夜中、そっと城を抜け出して、一人、鍛練に没頭してみたり、していなかった訳じゃないけれど。

父上を失ってからは、それまでと比べ物にならない程、それに拍車が掛かった。

でも。

そんな風に僕が焦っていること、焦っている姿、今のままでは未だ弱いのだと思い詰める風な背中。

それを、仲間達に見せる訳にはいかなかったから。

僕は、何時如何なる時でも、解放軍の軍主として在らねばならなかったから。

人々が寝静まった真夜中にしか、僕だけの時間は生めなくて、闇に紛れて一人抜け出し、棍を振るうしか、『僕自身』には。

…………僕のそんな部分に、マッシュとカイ師匠だけは気付いている風だったけれど、彼等は何も云わなかったから、それに甘えることにして。

変な処に聡いビクトールが、故郷に帰っていてくれて良かったと、あの時だけは、感じつつ。

夜な夜な。

月を、星を、見上げながら僕は、僕に残された最後の『希望』の為に、強く在ろうと足掻いていた。

………………けれど……──

────竜騎士達の助勢を請う為に、ヨシュアの元を訪れ。

眠りから目覚めぬ竜達の為に、赴いた、シークの谷。

あの場所で、テッドと再会するなんて……思ってもいなかった。

……そう。

あの谷での邂逅は、予想外の出来事だった。

それでも、黄金の都を後にしたあの夜より変わっていなかったテッドの姿に。

僕は、心からの安堵を覚えた。

ウィンディに呼び出され、にこっと微笑んだテッドの表情が、僕の知っている彼のものではないと、気付いても。

……生きていた。

生きていてくれた。

信じ続けたように、そうである筈、と望み続けたように、テッドが生きていてくれた、その事実の方が、僕には重要だった。

焦り続けた、急くような日々も、強くあろうと、駆け抜けた戦いも。

全て、無駄ではなくて。

大切な人々を失い続けた僕にも、たった一つだけ、テッドが残されていた、と。

生きているテッドの姿より、感じること叶ったから。

だから、ウィンディの望むままにテッドが、魂喰らいを返せ、と云おうが、彼を置き去りにして逃げ出した、黄金の都にての夜のことを詰られようが、そんなもの、僕の心に何の楔も打たなかった。

僕の知っている、僕の大切な親友が、己の本心で、そんな台詞を吐く筈がないと、僕は知っていた。

あの女が言わせていることに、耳を貸す必要などこれっぽっちもなくて、僕は唯、魔術師の手より、テッドを取り返せば良くて。

ソウルイーターを通し、テッドが僕に語り掛けて来た時、僕の推測は全て正しかったのだと、微笑みさえ、僕は浮かべそうになったのに。

目の前に現れた、僕の、最後の希望、最後の拠り所は。

…………あっさりと、僕の前から、掻き消えた。