父上と共に、宮廷に上がり。

皇帝陛下に謁見をした、あの日。

あの日の夕餉が、僕が、何不自由のない、唯の『お坊ちゃん』として、あの頃大切だった全ての人と過ごした、最後の晩餐だった。

翌朝、北方の戦線へと旅立ってしまった父上を、見送ること叶わなかったのにも、大した感慨など示さず。

父上のことだからどうせ、直ぐに勝利を収めて、任地を平定して、黄金の都へ……僕の元へ帰って来てくれるだろう……と。

そんな風に、僕は思っていた。

同じ日、近衛隊の者として、初めての任務だった、星見の結果を魔術師の塔へ受け取りに行った時。

レックナート……様に、僕が重たい運命を背負っているのだと、そう云われた時も。

正直に云えば、所詮は『占いの結果』でしかないだろうから、としか、僕には思えなかった。

ロックランドへ派遣された時も。

清風山で襲われたクイーンアントから、僕達を守る為に、テッドがソウルイーターを解放した時も。

僕は、あの黒い光が、『魂喰らい』だと知る由もなく。

テッドが何か、大変な秘密を抱えているのだな、程度のことしか思い至らなくて。

『一生のお願い』が口癖の、僕の大切な……生涯唯一の親友のことだから、きっとその内、打ち明けてくれるだろう、と。

そう、信じていた。

ロックランドから黄金の都……グレッグミンスターへと戻り。

テッドが、城へと連れて行かれてしまっても。

おかしいな、何だろう? とだけ考えて。

………………あの、底冷えのする雨の降り続いた、黄金の都にての夜。

自分が、幸せな日々を送っているのだと信じていた、最後の夜。

傷付いた体を引き摺って、城から逃げて来たテッド。

そんなテッドが絶え絶えに語った、彼の三百年。

三百年にも及ぶ、放浪の人生を送る原因になったソウルイーター。

それらを、目の当たりにしても。

『一生のお願い』だから……と、テッドより、魂喰らいを継承しても。

あの時は裏切りと思えたパーンの『主張』を知っても。

傷付いた彼を一人残して、黄金の都の雨の夜を、彷徨うこととなっても。

あの頃、僕は。

『運命』に、重みがある、なんてことを、これっぽっちも考えられなかった。

唯、あの夜。

呪われたテッドの三百年間を生み出した、魂喰らいを受け取ったこと。

彼を一人残し、不様に逃げ出すしか、術がなかったこと。

それらより。

それでも、今の己に出来る精一杯のことをしたのだろうから、ならば。……と、そう考え。

覚悟、と云う言葉と。

覚悟を決めたからには、嘆いてはいけない……と云う想いだけを。

漠然と、僕は心に浮かべた。