僕の望んだ、決着の形、ではなかったにせよ。

皇帝とウィンディがこの世から消えた時、解放戦争は確かに終わった。

解放軍は勝利を収め、トランの地には、新たなる国が起つこととなり。

……が僕は、新しい全てに背を向けるように、黄金の都を去った。

──皇帝の最後を見届け、帝国の最後を見届け、崩れ落ちそうな城の中を走りながら、これからの為に、これから生まれる国の為に、お前は必要な人間なんだと云いつつ、矢面に立ってくれたビクトールやフリックの云うことが、身に滲みなかった訳ではないし。

『それ』を僕は望まれて、『それ』を僕は、為すべきなんだろう……と、判ってはいたけれど。

僕は、故郷の街より、遠く離れる道を選んだ。

あの日々の間に起こった様々な出来事は、僕から、大切だったありとあらゆるモノを奪ったけれど、戦いが終わっても尚、僕はそれを嘆くつもりもなく、恨むつもりもなく。

目の前に広がり続ける覚悟の道を、何処までも行くのだろうと云う想いは、微塵程も揺らがなかったけれど……。

本当に僅かな間だけでいいから、休んでみたい、と云う想いも、僕の片隅からは消えなかったし。

オデッサ、グレミオ、父上、テッド。

……この四人を失ってしまったことに対する辛さは、歴然として、あったから。

黄金の都に留まり続けるのは、僕にとって、余り喜ばしいことじゃなかった。

何も残されなかったのに、黄金の都に留まり続ける意義など、僕にはなかった。

でも、戦いの後に求められる全てに僕が背を向けた理由は、それだけじゃない。

虚しい、としか思えぬ結末しか迎えられなかった僕の為に、ビクトールやフリックが消息を絶って。

リュウカン先生だけに見守られながら、自分の為したことは本当に正しかったのかと、疑問を抱きつつ、マッシュが逝ってしまったこと、その二つも、僕の旅立ちの後押しをした。

────僕は、この手の中に、在りし日の全てを取り返そうと決めて、戦いの先頭に立った。

嘆くことなく、悔いることなく。

この手の中に確かに掴んでいたモノ、その為だけに、僕は戦い続けた。

けれど、結末は多分、無惨、と例えても許されるだろうものでしかなく。

なのにそれでも、僕は止まれなくて。

止まれないならば、せめてこの手で、と願った戦いの決着さえ、見守る、と云う形で終わり。

全てが終わっても尚、僕の許から様々なものが零れ落ちて行くのに、歯止めは掛からなかった。

そんな思い出の残る、黄金の都に居続けることは、或る種の、苦痛でしかなかった。

……だから。

──そして、何より。

その最後を『見守る』こととなった、バルバロッサ皇帝、その存在が。

旅立とうと決める、最大の切っ掛けだった。

…………何を失っても、何に痛手を感じても、僕は止まれなかった。

僕の前に広がる覚悟の道を行くこと、それを僕は、止められなかった。

与えられた、天魁星と云う宿命、僕自身にはどうしたって逃れられない、僕の生まれた星の所為で。

僕が抱えた『覚悟』の所為で。

僕は、一時足りとも、止まること、出来なかった。

そして僕は、今も尚、止まることが出来ない。

──止まれない僕が、人々の希望を一心に背負った新国に留まり続けて、幸いが齎されると考えられる程、明るい思考を僕は持てなかった。

僕が、故郷に留まり続ければ、何時か。

人々が口々に例えるように、『トラン建国の英雄』として、故郷に留まり続ければ、何時の日か、僕は必ず、バルバロッサ皇帝のようになってしまうだろう、そう思えた。

英雄、と呼ばれ。

民衆に崇められ。

けれど、たった一つのことの為に、止まること叶わなかった、あの人のように。

僕も又。

僕の抱えた思いの為に、止まること叶わぬ、人間でしかないから。

だから、僕が故郷に留まり続けること、それは、故郷にとって、良いこととは思えなかった。

僕と云う存在がトランに留まり続ければ恐らく、あの解放戦争のような悲劇が、歴史の中で繰り返される。

そうなった時、僕は。

新たなる英雄に討ち滅ぼされる道を、辿ることとなるだろう。

でも、僕は。

生涯唯一人の親友だった、テッドの信頼を裏切ることも出来ない僕は。

僕を先駆ける星さえもない暗闇の中を、過った奈落へと堕ちているのだと気付いても尚、死ぬ道を、選べはしないだろうから。

戦いの終わり。

全てを振り切るように、黄金の都を後にして。

輝く月を見上げて。