「……おっと」

正確性は欠くよ、と、有り難く無い宣言をされたルックの瞬きの魔法に送られて。

カナタとセツナが姿現した場所は、グレッグミンスターの中心にある、女神像の噴水前だった。

腰の立たないセツナを抱えて、高い門を乗り越える羽目にならずに済んだことに感謝しつつ、石畳と噴水の淵、そのギリギリの境目に立ったカナタは、崩れそうになったバランスを整え、セツナを抱き直し。

荷物の袋と天牙棍を抱えたまま、今にも眠ってしまいそうな目をした、腕の中の少年に、微笑み掛けた。

「到着」

「眠い……です……」

無事、黄金の都に到着したことを告げれば、柔らかいベッドはもう直ぐそこ、と安堵したのか、縋るような眼差しを、少年が注いで来たから。

「寝ちゃってもいいよ。もう、家は見えるから」

湛えた笑みを、カナタは深くした。

「でも……そう…いう……わけ……にも………。うー……」

「大丈夫。気にしなくてもいい」

が、このまま眠るのは申し訳ないと、何度か目を瞬いて、セツナは睡魔と戦い。

遠慮することないのに、とカナタは己が家目指して歩き出す。

「…マクドール…さん……」

「ん?」

「今度……又……色々…お話、聞かせて……下さい……ね……」

「うん、いいよ。でも、どうして?」

「だって…………。僕、マクドールさん……の……傍に…………──

──歩き出したカナタより伝わる振動が、堪え難い程心地良かったのか。

云い募りながらもセツナは、マクドール邸を目の前にして、すっと瞼を閉ざし。

小さな寝息を立て始めた。

「…………セツナ? 寝ちゃった……?」

途中で止まってしまったセツナの台詞と、静かな寝息より、抱えた彼が眠ってしまったことにカナタは気付き。

おやおや……と苦笑を洩らして。

「お休み、セツナ。又、明日。──君がこの手の中にあるから。僕はこの街に、立っていられるよ……」

セツナを抱える腕に、もう一度力を込め直してカナタは、慈愛とも、『欲求』とも付かぬ眼差しを、眠ってしまった少年へと送って、辿り着いた『我が家』の玄関を叩いた。

「はい? あ、坊ちゃん。…………おや、セツナ君ですか? どうしたんです?」

彼のノックの音に答えて、留守を守っていたクレオが姿を現す。

「一寸、色々あってね。……悪いんだけどクレオ、僕の部屋のドア、開けてくれないかな。セツナ、ベッドに入れたいから」

「はい」

真夜中に帰宅した当主の姿と、当主が抱える少年の姿に、出迎えたクレオは目を丸くしたが、カナタの命にすぐさま、踵を返した。

「あ、クレオ」

「はい?」

「……ただいま。あ、そうそう、お土産あるんだ。未だ起きてるなら、お茶でも飲まないかい?」

背を向けて、玄関の向こうへ行こうとしていたクレオを呼び止め、カナタは云う。

「珍しいこともあるものですねえ。坊ちゃんが、お土産、なんて」

当主が掛けて来た、帰宅の言葉にクレオは、進めていた足を止め、僅かくすぐったそうに、肩越しに振り返り。

何か、あったんですか? と、柔らかく笑った。