飲み干してしまったオレンジジュースの代わりに、今度は、葡萄を搾ったジュースを、セツナはレオナに貰い。
傭兵コンビは相変わらず、カナカンのワインを飲み続けながら。
ひょんなことから始まった、解放軍時代の話を、彼等は続けた。
「あそこから先も、色々とあったよなー……」
唯々、あの頃を懐かしんで、ビクトールはグラスを傾け。
「その辺りのことは、俺は知らないがな」
フリックは、干し肉を千切りながら、口に放り込み。
「レナンカンプの話の後? マッシュさんの処に行ったんだよね? マクドールさんとビクトールさん」
確かー……と。
セツナはカナタに教えて貰った話を、思い出そうとしたが。
「何だ、随分と、懐かしい話をしてるじゃねえか」
セツナが辿ろうとした記憶は、ひょいっと顔を出したタイ・ホーとヤム・クーの二人に、遮られてしまう。
「あの頃の話かい?」
「ああ、そうだ。……あの時、お前さんには泣かされたなー……」
セツナの回想の邪魔をして、傭兵達の隣に腰掛け、話に混ざった漁師達に。
ビクトールが苦笑を洩らした。
「泣かされた……って? ビクトールさんが、タイ・ホーさんに?」
『ビクトール』が、『タイ・ホー』に泣かされた、と云う発言に。
セツナが目を丸くする。
「ああ……っても、正確には俺達が、だけどな。カクでの話さ。──セイカでマッシュに会ったら、カナタの奴、何でか、解放軍のリーダーになるって話、引き受けちまってな。グレミオが、さんっざん、反対したってのに。……で、解放軍の新しい本拠地を手に入れるってんで、トラン湖の廃城目指そうってことになって。だがその時、あの廃城はドラゴンの巣になっててなー……。近付こうとする船乗りが、一人もいなかったんだ」
「それで、タイ・ホーさんに? ……って、その辺もマクドールさんに聞いたことある気がするけど……。マクドールさんは別に、泣かされた、なんて云ってなかったような……」
きょとん、となった盟主に、傭兵が、泣かされた経緯を語り出したが。
タイ・ホーとヤム・クーが、苦笑でそれを否定した。
「人聞きの悪いこと云うなよ、ビクトール。セツナが、悩んじまうじゃねえか。──セツナ、お前さんがコロネからクスクスに行きたいって云って来た時と一緒さ。チンチロリンで俺に勝ったら、船出してやるって俺は云っただけだぞ。泣かせたのは俺じゃねえよ。あれは──」
「──結果は一緒じゃねえか。お前がカナタに賭け事なんか吹っ掛けるから、マクドール家の御子息が賭博なんて……って、グレミオが泣いて泣いて。手塩に掛けてお育てした坊ちゃんが不良になったー……なんて喚くあいつ、宥めるのに骨が折れたんだぞ、お前がカナタと勝負してる間」
が、そんな漁師達に、ビクトールは噛み付き。
「へー。そりゃあ、気付かなかった」
「……良く云うぜ、あのグレミオ見て、面白がってたろうが、お前。勝負運が強いのか、お前にあっさり勝ったカナタが気に入って、もう一度やろうだの何だの言い出すし、挙げ句、ドラゴン退治に付いて来るし……」
「悪いか? 役に立ったろう?」
「悪いたぁ云わないがな、俺は」
暫し、タイ・ホーとビクトールのじゃれ合いは続いた。
「あはは、仲良いねー、二人共」
そんな二人を、セツナはケラケラと笑い。
「笑い事じゃありませんよ、セツナさん」
ヤム・クーは溜息を零し。
「ほう……そんな経緯があったのか。あの本拠地手に入れるまでには。……そう云えば、俺がレナンカンプを脱出してから、あちこちの仲間連れて、湖上の城へ行くまでは、お前達、何やってたんだっけか?」
その話は初耳かも、と、フリックが先を促した。
「あの後? ……あの後、は…………」
「マクドールさんの話では、確か、コウアンの街でレパントさんに会って、でも、レパントさんの家の、マクドールさん曰くの『悪趣味』なからくり仕掛けに泣かされて、んと……あ、エルフの村に行くことになって、んで、その為にドワーフの村だっけ? にも行くことになって……えっと……?」
促された『先』を。
思い出しながら、セツナが語り。
「……ドワーフの村からエルフの村に帰ったら、焼き討ちをされた後……でな。当時、パンヌ・ヤクタの城を持っていた、クワンダ・ロスマンの部隊と解放軍との間で、戦争になったんだ」
ドワーフの村から先には、何があったんだっけ? と彼が首を捻ったら。
酒場のカウンターで、アニタと二人酒を酌み交わしながらも、彼等の話に耳を傾けていたらしいバレリアが、グラス片手に、円卓に近付いて来て。
若干の悔恨を含んだ瞳で、当時の出来事を告げた。