そもそもは肝試しの参加者だったのだから、取ってくる筈だった割引券を取ってこなかったのは、失格の対象。

途中から『幽霊役』に廻って、皆のことを脅かしたのは、お前達の気紛れ。

だから、約束は果たすように、と。

蒸し暑かったその日、夜半。

セツナの就寝時間直前に、盟主の部屋を訪れて。

底無しに酒精を飲み込むカナタの目にも、「お酒なんか、一杯も飲めませんー」なセツナの目にも、確実に飲み過ぎたな、と映る赤ら顔をした仲間達は、宣告を果たした。

だが。

ビクトールもフリックもシーナも、その時は思い至らなかったが、後からよくよく考えてみれば、どうして……、と思うことは出来たろうくらい。

嫌がらせか? としか思えぬ『約束』を宣告されても、カナタもセツナも、嫌な顔一つせず、判った、でも、準備がしたいから数日待って、と、恐ろしい程すんなり、仲間達が押し付けてきた『余興』を受け入れ。

………………さて、それより、数日後。

この間の肝試しの時の『約束』を果たしたいから、一寸トランに行って来る、と、例の日の翌朝、そそくさ出立したカナタとセツナが、午前の早い内に、本拠地へと戻って来た。

そして、戻って来るなり。

「ビクトールさーん、フリックさーん、シーナー。それに、皆もー。この間の約束通り、僕とマクドールさん、今日は一日、昼間はハイ・ヨーさんのトコで。夜は、レオナさんトコで。お皿洗いとお給仕するから、宜しくね」

「そういうこと、馴れてないけど。その辺は、大目に見てよ」

セツナとカナタは、口々にそう言って、着替えてくる、と。

ささっ……と、本拠地本棟最上階の、盟主の部屋へと消えた。

…………数日前の夜、仲間達が二人に宣告したのは、二つのことだ。

割引券を取ってこられなかった者がする、と決められていた約束通り、レストランと酒場で、皿洗いと、序でに給仕の手伝いをすること。

約束を果たすのが遅れたツケとして、自分達がそれぞれ、絶対に、この格好だけはしたくない、と思う格好をして、一日過ごすこと。

……その、二つ。

──皿洗いや、給仕は兎も角。

衣装に関しては。

何処かの芝居小屋から、芝居の衣装でも借りてこようか、とか。

どうせだから、あの二人が絶対に、何が何でも嫌がるだろう、女装とかをさせてみようか、とか。

いやいっそ、着ぐるみ、とか。

褌にムササビマント、とか。

『余興』の計画を練っていた間中、仲間達からは、命知らずな意見が数多出されていたのだが。

語るだけなら、どれ程命知らずな意見でも如何様に言えるが、実践、となると話は別なので、結局、そこだけは、彼等の任意に任せることに、話は落ち着いていた。

そうすれば、絶対に、この格好だけはしたくない、との姿になっても、その姿を、渋々でも選んだのは彼等本人なので、『逆襲』はされなかろう、と。

自己防衛と称して彼等は、或る意味『姑息』なことを考えたのだ。

故に、余興のお膳立てをした仲間達も、二人が果たして如何なる格好を選択したのかは、未知で。

「お待たせーーー!」

「うーん、やっぱり一寸、給仕をするには向かない格好だなあ……」

自称発明家のアダリーが拵えた、『えれべーたー』より降りて来た、セツナとカナタの格好を見て、待ち構えていた仲間達は思わず。

……視線を逸らした。

────カナタとセツナがそれぞれ、『絶対に、これだけはしたくない』と考えたらしい格好は。

一言で言うなら、それはそれは、きらびやか、だった。

目に痛い、と呟きたくなる程。

見る者が見れば、「ああ、グレッグミンスター辺りで仕立てられたのだろうな」と一目で判る、大層貴族的な衣装で、品がない訳でもないし、素っ頓狂、という訳でもないのだが……、色使いが、超が付く程派手で。

肩口や胸許などに下がる飾りも、こう……見るからに重そう、と言うか、一歩間違えばごてごてしていると評価出来そう、と言うかで。

意匠は、奇抜以外の何物でもなく。

兎に角。

確かに、その格好はしたくないと、大抵の者が断言するだろう代物ではあった。

「………………カナタ。セツナ。……お前等、その服どっから調達してきたんだ……?」

──彼等が、これ、と定めたそれが、余りにも……、だったからなのだろう、恐らく。

我慢出来ない、とでも言う風に、ビクトールが、その衣装の出所を尋ねた。

「ミルイヒに借りた」

ビクトールの問い掛けに、にっこり笑みつつカナタが答えた。

「……ミルイヒ……?」

「そう、ミルイヒ。……皆に、約束を果たすようにって言われた後、セツナと二人で、色々考えたんだけどね。結局、これに落ち着いたんだ。僕にもセツナにも、それぞれ、その格好をして、皆の前で給仕をするくらいなら、舌噛み切って死んだ方がマシ、ってそれはあったんだけど。流石にねえ。僕達が舌噛み切るかそれとも、皆が記憶を失うくらいの『所業』に及ぶか、の選択は、穏便ではないかな、と思って。で、ミルイヒの所に行って来たんだ。一寸、遠出になってしまったけれどもね。彼なら、僕やセツナでも着られる寸法の『こういう服』を、持ち合わせてるだろうと思ってさ」

そうして彼は、聞き流してしまえばそれまで、が、よくよく考えれば空恐ろしい科白、を、笑んだまま、さらり、と口にし。

「給仕や皿洗いをするには、少々『向き』ではないけど。『余興』的には、これで充分だろう? ──さ、セツナ。レストラン行こうか」

「はーーーい」

今日も今日とて蒸すと言うに、重たそうな衣装を着ているにも拘らず、やけに元気なセツナと共に、レストラン目指して歩いて行った。