ラダト行きの船の中で。

セツナとナナミの二人に、カナタが質問攻めに遇っている脇にて。

同盟軍の中では、腐れ縁、と名高いビクトールとフリックと、ひねくれた性格で有名なルックの三人が、こそこそと、肩を寄せ合って、小声で話し込んでいた。

何処か、井戸端会議のような、イケない打ち合わせのような、そんな雰囲気の輪の中に、ルックが率先して混ざることは希有で、先ず有り得ない、と云って良い事態だが。

一応、それには事情があった。

──この三名は揃って、三年前に終結した、トラン解放戦争に参加していた経歴を持つから。

カナタのことは、重々承知している。

あの戦争でカナタが辿った運命は勿論、解放戦争が終結した夜、誰にも何も云わず、カナタが旅立った意味も、薄々。

カナタ・マクドール、と云う彼が、解放軍々主となってより、戦争終結までに掛かった、約二年の日々を、三人は、今となっては懐かしい、トラン湖に浮かぶ孤島の城で、泣きながら、笑いながら過ごしたが故、三年前の、カナタの人となりも、彼等は良く知る。

……でも。

思い出そう、と気負う必要もない程簡単に思い出せる、三年前の記憶の中のカナタの面影と、昨日再会したカナタの姿が、どうしても、重なり切らなくて。

それ故に彼等は、肩が触れ合う程近寄って、こそこそと、話をする道を選んだのだ。

「………………はっきり言わせて貰うけど。あいつ、性格変わったよ、多分」

──セツナとナナミに、これでもか、と云わんばかりに懐かれても、嫌な顔一つせず、相手をしているカナタを盗み見ながら、ルックが呟いた。

「それは、俺も思う。こう……上手く言えないんだが……あの頃のあいつは、あんな風じゃなかった。……何と云うか……。今のあいつは、軽い、ノリ?」

ルックの呟いたことに、コクコクと、激しく頷きながら、フリックが同意した。

「あれから三年も経ちゃあ、カナタだって変わるとは思うがな。吹っ切ったんじゃねえのか? 色々。……唯、『何でセツナ』に? ……とは思うが」

ルックとフリックの二人へ、そんなに深刻になる程のことじゃねえだろ、とビクトールは言いつつも。

少々、納得のいかないことはある、と告げた。

「兎に角ね。もう一つ、はっきり言わせて貰うけど。カナタが、魂喰らいを宿してるってのは、今でも変わらない事実なんだから。それだけは、肝に命じておかないとね。……僕は御免だよ、何処か歯車のおかしくなった『紋章』主の面倒なんて、見切れないからね」

すればルックは、益々顔を顰めて。

「突き抜け過ぎたんだろうか……。カナタの奴…………」

フリックはその柳眉に、僅か哀愁を漂わせ。

「ま、取り敢えず。注意してみてようぜ、カナタのことは。……今の俺達の仕事は、セツナ支えて、この戦争に勝つことだからな」

その言葉の意味よりは、気楽な声音を放ってビクトールが、『密談』を閉めた。

一方、その頃。

はしゃぐことに疲れたナナミが、客室で休む、と、船の甲板を去ってしまったが故、二人きりになっていたカナタとセツナは。

少し離れた所から、船のとも辺りで、こそこそと話し込んでいる三人を、こっそり眺めながら、お喋りに興じていた。

「何を話してるんでしょうね、あの三人」

「さあねえ……。大方、僕のことじゃないかな。気にすることないのにね、僕は僕なんだから」

「そですよねー。マクドールさんはマクドールさんなのに。ま、いいや。──……と、まあ、そう云う訳で。それでえーーと……んと……五日前……かな? トランの、レパント大統領のトコに行って、同盟結んで来たんです」

「ふうん……。じゃ、君のお城には、シーナも居るんだ」

「はい、そうです。で、バレリアさんって方に、来て貰えることになって。で、一回、お城には戻ったんですよ」

「おや、バレリアが」

「あ、やっぱりお知り合いですか? バレリアさん。──でもですね、僕、緊張してたのか、色々と、忘れちゃってたこととかあって……。更にっっ! ラダトに、レブラントさんって云う鑑定士の人がいるんですけど、レブラントさん、青磁の壷持って来てくれたら、僕達のお城にお店出してもいいですよーって云ってくれてて。……なのにっっ。なのに僕、うっかりして、グレッグミンスターのゴードンさんの交易所で見掛けた青磁の壷、手に入れ損ねちゃっててっっ。それが、僕がしちゃった最大の忘れ物でっっっ、もー、悔しくって悔しくって……。だから、他にも色々手抜かりあったし、もう一回グレッグミンスターに行こうと思ってですね」

「……それで、僕に逢った、と」

「はい、そーなんです。……それでですね、マクドールさん。そしたら、もう一回バナーの峠道越えるのは嫌だって、シーナ言い出して、勝手に遠征面子から抜けちゃうし、フリードさんって人がいるんですけど、トランと同盟結んだ報告とか色々あるからって、フリードさんは、正軍師のシュウさんに取られちゃうしで、出掛け直すまでも色々とあってーーー…………──

──それなりに、傭兵コンビとルックの存在を、気にはしながらも。

あっさりと流して、セツナとカナタは、それまでしていた話の続きを語り始める。

何がどうしてどうなって、と。

他愛がないと云えば他愛がない話を、セツナは懸命に、それこそ、瞳をキラキラさせながらカナタへ捲し立て続け。

カナタは時折言葉を返しつつ、セツナの頭を撫でながら、続いて行く話に聞き入り。

「そろそろ、ラダトの街が見えるよーーーーっ!」

そうこうする内、休むことにも飽きたのだろう、甲板へと戻って来たナナミが叫んだ通り、遠く、トラン湖にも注ぐ川の上流に、水門の街は霞み始め。

船は。