翌日。
ナナミ達命名、『十代未満限定、若者勢揃いピクニック』の集合時間。
弟の部屋を訪れたナナミは、未だ、何も知らない大人達は寝静まっているだろう早朝であるにも拘らず、大声で、非難を放った。
「えーーーーーっ!! どうしてっ? どうして駄目なのっ!?」
「御免ね、ナナミ」
義弟の毎朝の起床時間より、確実に二時間は早いその時刻、勇んで迎えに行ってみれば、そんな時間から、隣国の英雄と何やら話していたらしい雰囲気の、だと云うのに未だに寝巻きのままだったセツナより、急に行けなくなっちゃった、と云われ。
御免ね、と心底すまなそうな顔をされ。
「でも、だって……。昨日は行くって、セツナ云ったじゃない。楽しみだね、って。ハイ・ヨーさんにお弁当も頼んだのに……」
悲しそうな顔を、ナナミは作る。
「……うん。僕も、行きたいんだけど……。行くつもりだったんだけど。……御免ね、夕べ遅くシュウさんに、どうしても今日中にやっておいて下さい、って云うこと、言い渡されちゃったから。僕がそれ放り出してピクニックに行くと、皆で内緒で……って云うのも、ばれちゃうでしょう? だから」
項垂れてみせた義姉を宥めるべく、セツナは比較的、明るい調子で事情を語った。
「最近、セツナ疲れてるみたいだから、お休みになれば、ってそう思ったのに……。お姉ちゃん、シュウさんに頼んで来ようか? 今日一日、セツナにお休み下さい、って」
「駄目だよ、それじゃ、お休みして何するんですか、って云われるのがオチだもん。だから、ナナミ……御免ね?」
「でもっ! 今だって、セツナ、草臥れたみたいな顔してるじゃないっ。そんな、白い顔してお仕事したって、体に良くなんてないよっ。だから、ねっ? セツナっ──」
「────ナナミちゃん」
これも、仕方のないことだから、と。
笑いながら云う義弟に、ナナミは云い募ったけれど。
グリンヒル奪還作戦よりこっち、ミューズにての戦いを経た後も、グレッグミンスターに帰ろうとせず、同盟軍本拠地に居続けるカナタ・マクドールが、そっとナナミの肩に手を置いた。
「マクドールさん……」
故にナナミは、貴方が弟と何時も一緒なのは今更だけれど……そんな意味合いも込めて、肩に置かれた手の意図を問うべく、カナタを見上げる。
「そんな、恐い顔をしないで? ね? ────セツナのことなら、心配しなくていいよ。僕が付いてるし、それにほら、今は未だ、早朝だろう? もしも早く終わったら、皆がピクニックしてる野原まで、僕がセツナを連れて行くから」
「………………だけど……」
「大丈夫。『先に行ってて』くれないかい? 後から、追い掛けるから。……ああ、唯、その場合、『十代未満限定、若者勢揃いピクニック』に、僕も例外で混ぜて貰わなきゃならなくなるけど」
そんなナナミの視線を捕らえ、カナタはにこっと微笑んでみせ。
先に行って? と彼女を促した。
「マクドールさんが、そう云うなら……。──でも、絶対ですよ? 絶対、セツナ、後から連れて来て下さいね?」
「うん、判ってるよ」
にっこりと、綺麗な笑みを浮かべたカナタに説得され、ナナミはもう、頷かざるを得なかった。
『従う』しかないのかも知れない、そう思って彼女は、セツナとカナタの言い分を汲み。
野原で待ってるからね、お弁当がなくなる前に来るんだよ、と言い残して、名残惜しそうに、セツナの部屋より、出て行った。
──────去って行った、ナナミの足跡が、完全に途絶えて暫し。
漸く、早朝の静寂を取り戻した室内の、ベッドの傍らにて。
「お疲れ様」
ナナミの気配が完璧に消えたことを確かめたカナタは、すっと両腕を伸ばして、セツナの体を支えた。
「……未だ、大丈夫ですよ、マクドールさん……」
疲れたように笑って、伸ばされた腕より、セツナは逃げようとした。
「僕の前で、無理しなくていいってば。何時も云ってるだろう? セツナ。だから、少し横になって」
「でも……シュウさんに、やっておいて下さいね、って云われた書類とかあるのは、本当ですよ? 僕、ナナミに嘘は云ってないですから」
「そうだね。──言葉が足りないのを、嘘とは云わない。君がピクニックに行けないってナナミちゃんに云った理由が、シュウに云われたことだけじゃないって云うのは、だから嘘じゃないね。でもね、セツナ。こうしていても、『未だ』大丈夫だけれど、その内倒れると思う、って云うのを、端折って僕に告げても、僕はそれを、『嘘』と云うよ?」
──こうしていても、平気です。
そう告げた少年が、己の腕から逃れて行こうとするのを、カナタは強い力で止めて。
『嘘』も、言葉が足りないのも、僕の前では通用しない、と、セツナをベッドに押し込めた。