一番年嵩の長女、長男、そして末の弟、と。

そんなようにすら見える風情で、三人仲良く夕食を拵え。

三人で、とは言っても、事実上は、セツナが拵えた、と言った方が正しいようなそれに、舌鼓を打って、風呂で暖まり、カナタの自室にて、遅くまで他愛無いことを喋り倒したカナタとセツナは、そのまま、仲良く揃ってベッドに潜り、ぐっすりと眠って、翌朝を迎えた。

クレオの声が掛かるよりも早く起き出し、身支度を整え、とても温暖な気候のトランと言えど、流石にこの時期は少し寒いと感じる朝の空気の中、活気づいている市場を彷徨い、新鮮な牛の乳や、卵や、焼き立てのパンを買い求めて帰宅し。

「随分と、御早いですね」

朝っぱらから、パタパタと始めた二人の騒ぎに、欠伸を噛み殺しながら起きて来たクレオと、挨拶を交わして。

出来たばかりの朝餉を摂り、後片付けはクレオに甘えて、又、カナタの部屋へと戻って。

コロコロと、満腹でご機嫌の子猫のように、ベッドや、この季節は床に敷かれる毛足の長い織物の上で、怠惰を貪り。

誠、好き勝手に過ごして、そして迎えた、午後。

──若いのに、何も、やる気のない猫以下の様を晒さなくても良いでしょうにと、お腹が空いていないから、昼食は今はいらないと、昼頃、どうしますかと部屋まで伺いに来たクレオに告げたら、小言めいた科白を返されてしまったので。

何かしようかと、怠惰で巨大な猫達は、その腰を上げ。

館に遮られて、大通りからは一切様子の伺えぬ、マクドール邸の広い庭を、ぶらつき始めた。

朝の内は寒かった空気も、午後ともなれば暖かく。

「トランの冬って、キャロの春くらいの暖かさありますよねー」

本物の子猫宜しく、芝生が植えられた一角にて、セツナは緑と戯れ始めた。

「そう? 僕はそれなりに、寒いと思うけど」

でろん、とだらしなく転がったセツナの傍らに腰下ろして、空を見上げ、カナタは気持ち良さそうに目を瞑った。

「えー、暖かいですよぅ。第一この辺、雪降らないじゃないですか。キャロの冬は、雪深いんですよー。ノースウィンドゥの辺りよりも、ずーっとずーっと寒いんです。……あの辺、標高が高いからなのか、地形の所為なのか、地図ではルルノイエより南なのに、ルルノイエよりも寒いんですよね。いいなあ、暖かくて。……あ、でもその分、雪は楽しめませんね」

「確かにこの辺──アールス地方では、雪には先ずお目に掛かれないけど、バナーの峠に行けるダナ地方なら、雪も降るよ。……うん。あの辺は寒い」

「僕に言わせれば、アールスでもダナでも、寒さなんか高が知れてますって」

「そうかな」

「そうですよ。でも冬暖かい分、夏は暑いですよね。ここで一夏過ごしたら、僕、倒れちゃいそうです。……この辺の人達って、夏、平気なのかなー……」

コロコロと、芝の上で遊び始めたセツナと、日光浴を楽しむように寛ぎ出したカナタの話は、老人達の茶飲み話宜しく、暑さ寒さの話に及んだ。

「平気だよ、それが当たり前だもの。……ああ、でも、避暑には行ってたね」

「…………マクドールさんのお家は、そうでしょうね。……何か今、貴族と庶民の差を感じました、僕」

「……又、大袈裟な」

「大袈裟なんかじゃないですよー。一般的な感覚ですって。僕達なんて、暑くったって寒くったって、逃げ場なかったですもん」

「家も年中、避暑に行ってた訳じゃないよ? ここで一夏過ごす年の方が、多かった。あんまりにも暑い年は避暑に行ったけど、ここの夏だって悪くはないよ。子供の頃は、暑い日のおやつの氷菓子も、グレッグミンスターの夏の楽しみの一つだったしね」

「………………暑い中、氷菓子……」

「……何か、変?」

「いえ、別に。変じゃないですけど。…………そうですよね。ここのお家なら、極々ふつーに、氷室、ありますよね」

「………………普通、ある……だろう? 何処の家にも、氷室くらい」

「…………………………。うわぉ……」

暑さ寒さのことから、話が、グレッグミンスターの夏の過ごし方に関することへと流れ。

閉ざしていた瞼を開いて、小首傾げながらカナタが言ったことに、ジトッとセツナは、物言いた気な目をした。

「セツナ?」

「地方格差だと、そう思っときます」

「…………は? 何の話?」

何故、こんな話の最中、違ったものを見るような目付きを、セツナはするのかと。

不思議に思ってセツナを呼べば、カナタにしてみれば、意味不明な科白を吐かれたので、彼は益々、訝しそうな顔付きになったが。

そのまま、何を思ったのか暫くの間、セツナが黙りこくってしまったので、仕方なく、彼はその沈黙に付き合った。

話途切れさせたまま、黙りこくり、何処か遠くを見ているような瞳で、くるくると表情を変え始めたセツナを、立てた膝の上に頬杖付いて眺めていたら、彼の『くるくる』は、本当に何時までも続いて、他愛無い以外の何物でもないとしかカナタには思えない先程の話から、セツナは一体何を想ったのだろうと、カナタは僅か、瞳を細めた。

──人と人とが交わす言葉の、何処に、何が、潜んでいるのか。

判らない。

何処かの何かに『それ』を潜めている者にしか、潜めたそれは、判らないから。

うっかり、余計なことでも言ってしまったかと。

細めた瞳でセツナを見遣りながらカナタは、彼の出方を待ってみることにした。

「…………マクドールさん」

そうして。

セツナが黙りこくったように、カナタも長らく黙りこくって、セツナを眺めていたら。

不意にセツナは芝の上より起き上がって、くるんと首を巡らせ。

「なぁに?」

「一寸、お台所借りてもいいですか?」

彼は、そう乞い出した。

「……どうしたの? お腹空いた?」

「いえ、そういう訳じゃないんですけど。…………一寸」

「…………いいよ。何にせよ、何か作るんだろう?」

「はい」

故に、カナタは立ち上がり。

セツナは、その後を追うようにして。

二人は庭を突っ切り、館の裏手に廻って、台所へと続く勝手口の扉を越えた。