「………それで? 確かめるって、どうやって確かめるの? セツナ」

──だから。

己自身で巡らした思考が導く結論に、呆れが齎す頭痛さえ覚えさせられそうになりながら、カナタは、己が瞳を覗き込んで来る、セツナの薄茶色のまなこを覗き返した。

「えっとですね。噂だと、今、あそこに出る山賊達は、女の人とか子供とかを攫うって云う話なんでー……──

すればセツナは、にこぉ……と微笑み。

──囮?」

少年の言わんとしたことを、カナタは奪った。

「ええ、まあ。それが手っ取り早いかな、って。噂が本当なら、罠仕掛ければ、釣れるんじゃないかなーと」

「…………釣りじゃないんだから……。──参考までに聞くけどね、セツナ。その囮役、誰がやるの?」

「僕です、僕ーーーっ」

「……どうして? 腕の立つ、女性でもいいんじゃない?」

「どんなに腕の立つ人でも、女の人にそんなことさせられません」

「じゃあ、一応は未だ子供、って言える年齢の戦士達は? 君の城には、沢山いるだろう? 『心当たり』」

「えー、でもぅ。何か遇ったら、危険じゃないですか」

「あのねえ…………」

……ほえほえと微笑みながら、ちんまりと椅子に座り続けて、茶や水菓子に手を出すことは忘れていないセツナと。

相変わらず、黒門司に刺さった食べ掛けの水菓子を、手慰みの材料にしているカナタとのやり取りは、暫し続き。

「セツナ? 君は同盟軍の盟主だろう? 万が一、君に何か遇ったらどうするの」

これを言われるのは、セツナは嫌がるだろうけれど、と思いながらもカナタは、ああ言えばこう言う少年へ、一枚目の切り札を出してみせた。

「だいじょぶですよぅ。マクドールさんには勝てた試しありませんけど、僕だって、同盟軍の中じゃ強い方ですよ? 僕より弱い人に、そんなことさせられる筈がないじゃないですか」

が、セツナは周囲の想像を裏切らず、さらっと反論し。

「……不貞の輩を何とかしたい、って云うね、君の気持ちは判るけど。その手の話に関することなら、レパントやバルカスが手を打つよ? 任せておいたら? バルカスが山賊達のことをぼやいたってことは、同盟軍側の領土ではなくて、トランの領土の方に出没する場合が多いってことなんだから」

ならば、とカナタは、次の札を切った。

「ですけど……。バナーの峠道は、トランの領内じゃないですよね? あそこ、同盟軍の領土ですもん。その部分の話、レパント大領領やバルカスさんに、おんぶに抱っこ、って云うのも、何かなあ……って。同盟結んでる訳ですし。治安とか、そう云うことって、両方の国の問題じゃないかなぁ……と思うんですけど。それに、今一つ決定的な手掛かりがなくって、困ってるんだ、ってバルカスさん言ってましたし。だったら、協力しよっかなーって」

「治安、ね…………」

けれど、それでもセツナは小首を傾げ、んー……と考え込む素振りだけは見せながらも、発案の撤回はせず。

…………ホント、ああ言えばこう言う……と、胸の内のみで溜息付き付き、カナタは無駄と知りつつ、最後の札を切ってみた。

「なら。この件は、正軍師殿に一任したら? 彼なら、何らかの手を打つと思うけど?」

「シュウさんにそんなこと言ったら、又そーゆーことに首突っ込んで、ってお説教喰らうから、ヤーです。それに、シュウさんに相談してたら、時間掛かっちゃいそうですし」

「あのね、セツ──

──だいじょぶです、確かめるだけですしっ」

「………………僕ならお小言言わないって、そう思ってる?」

「思ってますっ!」

「…………………………本当に、もう……」

しかし。

カナタが告げた、同盟軍正軍師の名と云う札も、セツナには効かず。

あからさまに、あーあ、と云う顔をして彼は、その席を共にしていた、が、それぞれの思惑に従い、自分達のやり取りに一言とて口を挟もうとしなかった面々を、くるっと眺めた。

──その時カナタが眺めた面々。

本日のセツナのお供・その一、である、同盟軍の腐れ縁傭兵コンビの片割れ、ビクトールは、カナタと目線が合った瞬間、ま、何時ものことだろ? ……そんな素振りで笑うだけで。

お供・その二、ビクトールの相方、フリックは、しらー……と目線を泳がせ。

お供・その三、トラン大統領子息、シーナは、ははっ……と誤魔化し笑いを作り。

お供・その四、風の魔法使い、ルックは、さも、興味ないね、とでも云う風に、表情一つ変えず。

マクドール邸の留守居役、クレオは、そっと苦笑を浮かべた。

「……クレオ」

「はい、坊っちゃん」

だからカナタは、お供達は全員、丸め込まれた後か……と、遣る瀬なく思いながらクレオの名を呼び。

「すまないけれど。一寸バルカス達を借りるからって、後で一筆書くから、それ、大統領府に届けてくれるかい? 出来ればレパントに。レパントの手が離せないようだったら、アレンか、グレンシールか……さもなくば、カイ師匠辺りに、直接届けて欲しい」

言い出したら聞かないセツナの意に沿う為に、腰を上げると宣言した。

「判りました。ちゃんと、レパント大統領に届けますから」

結局折れるんだったら、無駄な抵抗なんかしなければいいのに……と、顔全体で示しながらも、クレオは頷く。

セツナ君には甘いですね、とでも言いたげに。

「さて、セツナ。そうまで言うなら、僕も付き合ってあげるから。言ってみて。ここに来るまでの間に、『確かめたい』ことの為に、君がどう云う手筈を整えて来たのか、それから聞かせて」

すればカナタは。

幼い頃から共に生活して来た、姉のような人の表情に、憮然とした色を返してからセツナへと向き直り。

「えっとですねー」

カナタの口振りよりセツナは。

あ、色々ばれてる……と、ぺろり、舌を出しながら、己が思う処を語り始めた。