「あのな、セツナ。お前の気持ちが判らない訳じゃないけどな」

「ホントだよ。……頼むからさあ、顔色青くなるようなことすんなって。………………怒ってたぞーー、カナタ」

「……まあ…………御無事だったのは何よりですが。──セツナ殿。同盟軍の盟主として、軽率とも思えるような行いは、感心出来ません」

「色んな奴にね、小言たーーーーっぷり、喰らうんだろうから。あたしゃ何も言わないけどね? 無事で良かった、とだけ言ってあげるけどさ。そのう……ねえ。もう少し、ねえ…………」

「本当に、御無事で何よりですよ。このトラン国内で、セツナ様に何か遭ったら、我々としても立場がありませんし……」

────先に行け、とカナタに言われ。

森の方に行けば、シーナかフリックと会える筈、とルックに教えられ。

素直に、広大なバナーの森へと戻ってみれば、一足先に到着して、合流を果たしていたらしい人々に、さっくりと捕まり。

フリック、シーナ、フリックが連れて来たバレリアにアニタ、シーナと共にやって来たバルカス……の、計五人に囲まれて、一斉に、頭の上から小言を垂れられる、と云う憂き目に遭い。

「御免なさいぃぃぃ……」

身を縮ませるようにして、セツナは詫びた。

「……心配掛けて、御免ね?」

えへ……っと笑いながら、ちろっと視線を上向け、彼が人々を眺めれば。

「そう思うなら、心配掛けるようなことはするな」

パカン、とフリックに、頭の天辺を叩かれ。

「…………うーーー、フリックさんにぶたれた。……あー、お城に帰ったら、シュウさんのお説教待ってる……。マクドールさんにも、お小言は後でたっっっっぷり、って言われちゃったし……。…………帰るの、恐いよぅ……」

叩かれた所を、こしこし擦りながらセツナは、哀しそうに、遠い目をした。

「……あ。それにしても、マクドールさん、遅い。ビクトールさん、どうしたんだろ?」

今だけは絶対に、フリックに叩かれたことを誰も同情してくれないだろうから、一人で項垂れ、自力で立ち直り。

ふと、セツナは廃屋の棟立ち並ぶ、闇の方へと向き直る。

「カナタの奴に限って、何か……ってことはないと思うけど」

仲間達と落ち会えて、説教まで喰らったのに、カナタが未だ帰って来ないと、気遣わしげになったセツナに、気楽な口調で、シーナが言った。

「確かに、遅いと言えば遅いような……。──気にならないことが、ない訳ではないからなあ……。ここの山賊共は、赤月帝国の残党ではないか、とか……解放軍にいた、傭兵のなれの果てではないか……とか、そんな話もあるし……。ここに派遣した家の部下達は結局、帰って来なかったしな……」

しかし、バルカスが、シーナが見せた気楽さを吹き飛ばすように、僅か、重い声を出した。

「…………バルカスさん。マクドールさん、バルカスさんに、ここで何をしろって言ってました?」

と、バルカスの呟きを拾い、セツナが振り返り。

「逃げ遂せる者が出ぬように、この鉱山跡を取り囲んでくれればそれでいい、と。まあ……万が一、何かが遭れば、それ以上のことはするつもりですが」

「……………………僕、一寸様子見てくる」

見上げたバルカスが答えてくれたことへ、小首を傾げて彼は、一瞬だけ、悩むような素振りを見せながらも、仲間達に、そう告げるや否や、森影より飛び出した。

「お待ち、セツナっ!」

「へーきだってば、直ぐ戻るからーーーーっ。様子見てくるだけーーーーっ!」

駆け出した彼の襟首を引っ掴もうと、アニタが腕を伸ばしたが、間に合わず。

大声を上げながらセツナは、夜陰に紛れてしまい。

「…………懲りておられんな……。『余計』な処、カナタ殿にそっくりだ」

苦笑と共にバレリアが、ボソっと洩らし。

「そんなこと言ってる場合かっっ。あいつに又何か遭ったら、今度はカナタの奴、キレるなんてもんじゃ済まないぞ? 俺は一晩に二度も、キレたカナタなんか見たくない。兎に角、散開して、包囲縮めろっっ」

冗談じゃない、とフリックは、顔色を青くしながら、声を張り上げた。