鉱山のある町、と云う物は。
多かれ少なかれ、豊かであるにせよ、貧しくあるにせよ、それなりには『栄える』もので。
かつて、鉱山を抱えていた町の跡、と云うものは、虚しかろうと、寒々しかろうと、かつての『繁栄』の名残りくらいは、感じさせてくれるものだが。
そこを利用していた『目的』の所為だろう、ふらふらと極力、年端も行かぬ子供の足取りを装いながら森の中を歩いていたセツナが、とうとう山賊や夜盗の類いに出会すこともないまま辿り着いてしまったバナー鉱山の跡地は、久しく使われた形跡がない詰所のような物が数棟建っているだけで、後は唯、坑道の入口が数カ所口を開いているだけの、本当に何もない場所だった。
人々に与える印象の度合いで云えば、トランの片隅にある、廃虚の町カレッカよりは若干まともなそれだが、セツナはカレッカの町を、その目で見たことがないので。
「ヤな感じ……」
頭から被ったマントの中より、キョロっと辺りを見回して、心底渋い顔を作った。
……でも、彼は。
敢えてその表情を消さず、きょときょとしながら頼り無さげに足を進め。
「誰かいませんかー…………」
わざと、そんな声を上げ。
ぺふっと、最も大きい詰所跡の、入口だったろう場所に座り込んだ。
その姿は、端から見れば確かに、旅の途中か何かで、親兄弟と逸れた子供のように見え。
今の己の様が、見ず知らずの他人の目にどう映るか、悟っているのだろう。
十五歳っ! ……と、己が言い張り続けている年齢よりも、数歳は幼く見える──本当に数歳、幼いのかも知れないが──自身の容姿を、喜ぶべきか悲しむべきか、とセツナは、複雑な思いを脳裏に過らせた。
「マク…………────さんみたいに、とは言わないけどー。もーちょっとくらい、大きくなりたいんだけどなー……」
そうして、暫し。
歩き疲れた幼子のような風情で彼は、その場にしゃがみ込み続け。
零した独り言にて、マクドールさん、と言い掛け、が、この名前はマズイかも知れない、誰か聞いているかも知れないし、と、何とかその部分だけを飲み込つつも、一人喋りを続け。
「もう伸びないのかなあ、僕の背……。望み薄いかも……。マ…………さんと、六寸ちょいも差があるのにぃ。……ビクトールさんやフリックさんみたいにー、とは言わないけどさー……。……一目で、僕よりも小さいって判るの、宿星の中ではトウタだけって云うのも、悔しいよぅ……。──……それにしても、誰もいない…………」
噂通り、『怪しいおじさん』の一人でも出て来ないかなー……と、周囲に気を張り続けた。
しかし。
いい加減、お尻が痛い……と彼が感じるようになっても、山賊処か、狐狸の類いすら現れてはくれなく。
「あーあ……」
何時までも、こうしているのもわざとらしいかと、ノタノタ、彼は立ち上がった。
……実際の処、彼の実年齢は幾つなのか、と云う話を脇に退けても。
『実年齢』よりは、幼く見えることに間違いはなかろうとも。
流石にセツナとて、十より小さい子供には見えない。
見ず知らずの者に、この少年の年齢は幾つだと思う? と問えば、大抵の者が、十三、四、とは答える。
そして幾ら何でも、十三、四の歳ともなれば、この場所が廃虚だと云う分別くらいは付けられて、かつては人が住んでいたなら、麓へと降りる街道はある筈、くらいの知恵は巡らせるから。
のっそり立ち上がった彼は、サラディの町へと繋がっている筈の街道を探すべく、廃虚の廻りを彷徨き始めた。
────うろうろと、彷徨い始めて、直ぐ。
麓へと続いているらしい道の入口は、見つかった。
カナタがそう言っていたから、この道の終点はサラディだと、セツナは当たりを付けているけれど、縦しんば、この道を辿った結果、サラディ方面へと降りられなかったとしても、トランの何処かには出るだろうし、自分の後を、カナタ達が追っているのは判っているし、と。
ここ、降りてってみようかな……、そんな風にセツナは、街道の始点を眺めた。
……自分が、本当に唯の迷子で、偶然この場所に辿り着いたなら、そうする。
多分、自分と同じくらいの歳の子も、そうする筈。
なら、それが一番自然……と。
彼は、そう思ったけれど。
フイ……っと天頂を見上げてみれば、もう日は傾き出していて、夕暮れが近いことを知らせて来ているし。
『子供』の足では今からこの道を辿っても、何処かに辿り着く前に日が暮れるのが相場。
だったら…………、そうも彼は考え。
泣きべそ掻きながら、恐る恐る野宿する子供のフリでもしよっかなー、と。
くるり、詰所の方へと踵を返した。
ビクビクと、辺りを窺う演技だけは忘れず。
そろそろと進んで、そろそろと、先程座り込んでいた詰所跡の扉を叩き。
「誰か……います……?」
か細い声と共に中を窺い。
セツナは、パタ……っと音を立ててつつ扉を閉め、廃虚の中へ消えた。