負けたような、痛み分けで終えられたような。

そんな、微妙な形で終わった戦の後始末の為に、一度は戻った傭兵砦より、そのハイランド兵士達は、近辺の森を探索していた。

もしかしたら、負傷して逃げ遅れた同盟軍兵士の一人や二人、森影に潜んでいるかも知れないから。

所謂、残党狩りという奴をすべく。

小隊規模の編成を組んで、男達は、森の下草を刈っていた。

傷付き倒れ、呻いている敵がいるなら。

その命は、刈り取っておいた方が良い。

その者が、雑兵なら尚更。

雑兵でない『獲物』に、万が一でも出会えれば、捕虜にすることも出来る。

故に兵士達は森を彷徨い。

リューベの村辺りから、傭兵砦の前を過ぎ、ラダトへと続く街道に面した森の片隅で、深い下草の中に踞る、『子供』を見付けた。

一見、何処にも怪我を負っているとは思えなかったが、『子供』が、何かに苦しんでいるのは一目で判った。

背を丸め、嬰児のような風情でいる『子供』は、兵士達の目に、とても幼く映り。

近在の子供か何かか、そうでもなければ旅の途中で親と逸れたかして、一人彷徨う内に、水にでも当たったか、と兵士達は、『子供』がそこに踞ることとなった成り行きを思い描いた。

「……何だ、子供か」

「おい、どうした? 坊主」

勝手に、脳裏のみで事の成り行きに思い巡らせた兵士達は、その『子供』に近付いて、肩を揺すった。

すれば途端、苦しげな、少しばかり強いトーンの、呻き声が『子供』より洩れ。

そんなに酷く体を壊したのか、と身を屈めた兵士達は、『子供』の顔を覗き込んだ。

「おい、こいつ…………」

──『子供』の顔を一瞥した、兵士の一人が言った。

「まさか。そんな都合のいい話はねえだろ、早々」

仲間が言わんとした多くを聞く前に、別の兵士が言った。

「……いや、間違いないと思うぞ。戦場で見掛けた同盟軍の盟主、そっくりだし。着てる物も、身に付けてる物も、武器も、世間の噂通りだし。…………それに、これ」

仲間達が言い出した話を横で聞いて。

まじまじと、『子供』を見遣った三人目の兵士は、微か、嫌がるような素振りを見せた『子供』の右腕を強引に持ち上げ、指先を覆っていた手袋を外し。

そこに、同盟軍盟主が宿していると言う、『輝く盾の紋章』を、剥き出しにした。

「……じゃあ、本当に。このガキが、同盟軍の盟主……?」

──『輝く盾』を、見付けた瞬間。

彼等の中で、無防備に苦しんでいる『子供』は、敵方の総大将──セツナ、に変わった。

「そうだってなら、殺っちまおうぜ、今直ぐ。俺達の、敵じゃねえか。こいつさえ殺っちまえば……」

『子供』から、『セツナ』に変わった彼に、四人目の兵士が、慌てた風に抜き去った、剣を突き付けた。

「ルカ様が戦死したあの夜戦で、俺の親友は、同盟軍に殺されたんだ……」

五人目の兵士も。

そう言って、同じく剣を。

「どうする? 隊長」

「首を刎ねるのは、何時でも出来る」

だが、その小隊の長らしき、六人目の、彼等の中で一番年嵩の兵士は、仲間達を押さえ。

「それもそうか。楽に殺してやるのも、惜しいし」

彼等は、身動みじろぎだけを繰り返すセツナの二の腕を掴んで、無理矢理に立たせた。

「何だよ、一人で立てもしねえのかよ、こいつ」

立たせてみても、かくりと膝を折って、弛緩してしまうセツナを、男達は嘲る。

「病でも患ってんじゃねえの? 同盟軍の盟主が病だ、なんてそんな話、聞いたことはねえけど」

青を通り越して白い、色のないセツナの頬を見遣って、一人の兵士が、仕方ねえなと、乱暴に、セツナを肩に担ぎ上げた。

「こんな、ガキに…………」

軽々、仲間の肩に担がれた、決して逞しいとは言えぬ体躯を眺め、男達は唾棄するようになる。

「さあ、戻るぞ」

──そうして、兵士達は。

意気揚々と、傭兵砦の方角を目指して、身を翻した。