少しずつ少しずつ、時と季節が進んで、徐々に、デュナン湖を中心に広がるデュナンの国の蒸し暑さが増し、空を見上げた人々が、ああ、夏の盛りだ……と、そう思うようになった頃。

ハイイーストにて動乱が勃発して、二十日近くが経とうかと言うその日、大統領達が住まう古城は、格段の賑やかさに包まれていた。

「へぇぇぇぇ。大きくなったねえ、ピート! ヒルダ、あんたも元気そうで。アレックスも」

「ええ、お陰様で。生意気盛りになったんですよ、この子も。バーバラさんも、お元気そうで」

「あたしゃ変わりないよ。相変わらず、この城は忙しいしね。……そりゃそうと、宿屋の方はいいのかい?」

「そうですか。あの頃のままなんですねえ、この城は。──あ、宿の方は暫く休業ですわ。話を聞いて、放り出して来てしまったと言うのが、本当の処ですけど」

その城が未だ、同盟軍の本拠地だった頃、倉庫街とされていた辺りで、今ではデュナン国の財務を取り仕切っているバーバラは、戦争後、ミューズ市郊外で営んでいた宿屋、白鹿亭へと家族揃って戻ったヒルダと、久し振りの再会を果たしながら、世間話に興じていたし。

「おや。元気にしてたかい? どうだい、トゥーリバーの調子は」

「ぼちぼち。……ま、景気の方はあれだけど、料理の腕の方は、それなりに上がったよ。今度食べに来ておくれよ、レオナ姐さん」

「そうかい? じゃあ今度、機会があったらね。……そうだ、トゥーリバーに住んでる、他の連中は? やっぱり、かい?」

「うん。待ってるよ。──トゥーリバーの他の連中? ……ああ、多分もう少しすると、リドリーのおっさんとか、チャコとか。ここに顔出すんじゃないかな。そんな噂、ちらっと聞いたし。ギジムの兄貴もコウユウも、来てるよ」

相変わらず、その酒場を営んでいるレオナの所では、山賊家業から足を洗い、トゥーリバー市にて小料理屋を持ったロウエンが、ああでもないの、こうでもないの、女将・レオナを捕まえて、話し込んでいたし。

「リドリー殿!」

「おお、ハウザー殿!」

「ご健勝のようで、何より」

「ハウザー殿こそ。私はそろそろ、老体ですがな。此度の話を聞いて、年甲斐もなく、ここまでやって来てしまいましたわ。処で、キバ殿は? 引退なされて数年は経たれますが、サウスウィンドゥでしたかな? 今のお住まいは」

「ええ、今はあちらでのんびり、一人お住まいだとか。クラウス殿にお伺いしてみれば、もっと詳しい話を教えて下さろう。それより、リドリー殿? そちらの、コボルト族の青年は何方で?」

「……ああ。これは、私の不祥の息子の、ボリスです。統一戦争の頃は、無名諸国に留学しておりましてな。経験は未だ浅いですが、若い分、私よりも働いてくれるのではないかと思って、連れて来たのです」

その城の、あの議場前では、ハウザーとリドリーが、リドリーが連れて来た息子も交えて、引退してしまって久しいキバの噂も交えながら、旧友を暖めるように、肩を叩き合っていたし。

「一寸、薬草が足りないみたいですね」

「そのようですね。まあ、ここの処、平和でしたから。──トウタ、今の内に、この城で揃えられそうな物を、集めて来て貰えますか?」

「はい、ホウアン先生」

誠に、自然に。

さも、あの頃のままであるかのように。

ミューズより、連れ立ってやって来たホウアンとトウタの二人は、城へと到着するや否や、医務室へと篭って。

「うわー、大きくなったなー、フッチ……」

「そう? チャコだって、随分と背が伸びたじゃないか。あの頃のシドと、いい勝負くらいかな」

「でも、フッチには敵わないしさあ。何か悔しいなあ、サスケもデッカくなっちまったし」

「あれから、十一年も経ってんだぞ? 俺だってフッチだって、背、伸びてなきゃ困るって。いいじゃないか、チャコだって、ちゃんとデカくなったんだから」

「そう言えば、ルックの奴は? 元気なのか?」

「元気…………なんじゃないかな、ルックのことだから。俺は噂、聞かないけど……。サスケは? 知ってる?」

「さあ、俺も。でもアレじゃないか? 魔術師の塔の方で何か遭ったって話も聞かないから、今でも変わらず、レックナート様つったか? あのお師匠様と一緒にいると思うけど」

久し振りに、懐かしい風景が見たいと、展望台に立っていたフッチは、物見遊山にやって来たような顔をして城の門を潜ってみせたチャコや、トランからの道中一緒になったサスケと三人で、立ち話をしていた。

────そう、そうやって。

ハイイーストで起こった動乱という、遣る瀬ないそれを切っ掛けにして、ではあったけれど。

城に集い始めた懐かしい人々は、懐かしい仲間達と、再会を果たして。

デュナンの古城は、あの頃のように。