ミューズから逃げて、流れて、僕やナナミが、ビクトールさんやフリックさん達と行き着いた場所は、ノースウィンドゥって昔は呼ばれてた、ビクトールさんの故郷の、廃虚だった。
そこには、トラン解放戦争の時も何か仕出かしたらしい吸血鬼のネクロードがいて……でも、何とかノースウィンドゥの廃城を、僕達は物に出来て。
アップルさんに言われるままにラダトの街に行って、シュウさんに、軍師になって下さい、力を貸して下さってお願いした。
………………最初、シュウさんには物凄く嫌な顔されて、嫌がらせ? もしかしてこの人、性格悪い? って思っちゃうようなこと、散々されたけど。
最後にはシュウさん、力を貸してくれて、ソロン・ジーって言ったかな、ノースウィンドゥに攻めて来たハイランドの将軍を負かすことも出来て。
戦争を終えて本拠地に戻った時、僕のことを、まるで『英雄』みたいに出迎えてくれた皆にはびっくりしたけど、まあ、こういうこともあるよね、単なる誤解だし……なんてね、気楽に考えてたら、『気楽な誤解』は『気楽な誤解』のまま済んでくれなくって、シュウさんに、同盟軍の盟主になって下さいって、僕は言われた。
──ナナミはあの時、シュウさんが言ったことに凄く凄く反対して、僕を叱って、そんなの駄目っ! ってシュウさんに噛み付いて。
僕自身、凄く凄く、物凄く悩んだけど……ビクトールさんに、ゲンカクじいちゃんと、じいちゃんの親友だったっていうハーン・カニンガムって人のこととか、都市同盟やハイランドとじいちゃんの関係とか、色々教えて貰って。
……難しいことなんて、僕には計る余地がなかったけれど、結局僕は、自分の意志で、同盟軍の盟主になろうって決めた。
でも、難しい言葉で言うんなら、傀儡……って言うの? そういうのは凄く嫌だったから、シュウさんに色々、注文付けさせて貰って。
大人の人が考えてくれる──ううん、大人の人だからこそ考えなきゃいけない、『難しい』部分だけ宜しくお願いしますねってシュウさんに頼んで、僕は、僕の幸せの為に、盟主になった。
…………僕は、幸せになりたかった。
幸せになりたかったから、早く、戦いが終わればいいって、そう思った。
だから、僕が盟主になって戦うことで、戦争が一日でも早く終わって、幸せになれて。
確かに幸せがあったキャロの街に、ナナミと、あの頃は何処にいるのか判らなかったジョウイも捜し出せて、三人一緒に帰れるって言うんなら、僕はそれで構わなかった。
その為になら、ユニコーン少年隊にいた頃は嫌だなって思ってた、戦場で人を殺すことも、厭わないって思った。
『敵』である人を殺さなければ、僕や、僕の周りにいる沢山の人が、幸せになれないって言うんなら。
僕は、人殺しになっても構わないって……そう思った。
どんな形でもいい。例え、全てが終わった時、死んだって構わない。
償いは、どんな形でだってするから。叶うなら、生きて償いをするから。
幸せになれるように。死んだとしても、幸せだったと思いながら死ねるように。僕の周りの人が、幸せであれるように。
僕は、盟主っていう名の『人殺し』になることを、決めた。
それが、『強さ』だと言うなら。
それを受け止めるよって……僕は思った。
────幸せになりたかった。
唯、それだけだった。
失くしてしまいそうなモノを、もしかしたらあの時にはもう失くしてしまっていたのかも知れないモノを、取り返したかった。
唯、それだけだった。
それ以外、あの時の僕は、何一つとして望まなかった。
『幸せ』になれれば…………それで、良かった。