一生懸命、頑張ったんだよ?

本当だよ?

辛くもなかったし、苦しくもなかったし、哀しくもなかったし。

……唯、一寸……戦いだったり戦争だったりに出て行く、盟主の僕を、哀しそうにナナミが見るのだけが、いたたまれなかったけど。

僕は僕なりに頑張って、辛い……なんて感じたこともなくって。

唯、一生懸命。

────僕が盟主になってからも、色々と沢山のことがあって、あちこちに飛んで仲間を集めたり、協力してくれる人を探したり、戦ったり、戦争したり……。

どんどん進んで行く毎日を、僕は頑張って過ごしてた。

幸せになるんだって決めて。

だから、僕の周りの仲間達にも、幸せになりましょうね、って言って。

強くなることも、頑張って頑張って、大人の戦士の人だって、僕に敵う人は滅多にいなくなるくらい、頑張って。

盟主として、僕がやらなきゃいけないことだって、沢山沢山、覚えてこなして。

…………でも、或る日。

あれ……? って思うことがあった。

トゥーリバーの街で、攻めて来たキバさんとクラウスさんの皇国軍を退けた時だったかな。

何処も具合なんて悪くなかったし、怪我とかした訳でもないのに、僕は倒れちゃって……その時に、夢を見た。

──それは、ジョウイの夢だった。

ハイランドの本陣みたいな場所で、ルカさんがいて、ソロン・ジーって将軍もいて、他にも何人か、ハイランドの偉い人がいるみたいな感じで……。

そんな中、ルカさんは凄く怒ってて、ソロンって将軍を、用無しだから処刑する、みたいなこと言ってて、学園都市・グリンヒルを陥落させてみせる者はいないのか、なんてことも叫んでて、そうしたら、ジョウイが出て来て………。

ルカさんに、傅くようにジョウイ、してて、自分がグリンヒルを陥してみせる……って言ってて…………。

──何て、嫌な夢だろう……って。

その夢から目覚めた時、僕はそう思った。

ミューズで別れたきり、どうしているのか消息も掴めなかったジョウイがハイランド軍にいて、況してやグリンヒルを攻めるなんて夢。

悪夢でしかなかった。

……でもね、でも……その後直ぐ、本当にグリンヒルが陥ちたって知らせが入って、学園都市にこっそり乗り込んでみたら、たった五千の軍隊でグリンヒルを陥としたハイランドの将軍っていうのは……あの夢の通り、ジョウイ、で…………。

──再会した彼は、何も言ってはくれなかった。

何を訊いても、何を言っても、何も答えてはくれなくって、グリンヒルの森の中でばったり行き会った時には、同盟軍の盟主なんて今直ぐ止めて、逃げてくれとすら『懇願』された。

ハイランドも都市同盟も、ルカの好きにはさせない、そう言い切って……だから……って。

────その時、能く判った。

誰か、ジョウイに何かを、命令した人がいたとしても。

ジョウイは自分の意志で、アナベルさんを殺したんだって。

彼の中の始まりが、『純粋にハイランドを選んだ』のか、『ハイランドを選んだと見せ掛けた』のかの、一体どっちだったのか、それは判らないけれど、どっちにしてもジョウイは、『ハイランドを選んだ』んだ……って。

紋章だけでは、ジョウイには足りなくって。

平和を取り戻す為の力を求める為に……例えそれが、僕やナナミの為、それだけの理由だったとしても……ジョウイは、ハイランドを選んだジョウイは、僕を置いて行ったんだ、僕は、ジョウイに『置いて行かれた』んだ……って。

それが僕には、能く判った。

逃げてくれって、ジョウイが言った、あの時。

……そうして。

もう一つのことも、何故か僕には判った。

僕が倒れた時見たジョウイの夢は、夢なんかじゃなくって、本当にあったことなんだ。

本当にジョウイは、自分からグリンヒルを陥としてみせるって、そうルカさんに誓ったんだ。

紋章を分け合った僕達は、離れ離れになった後も、『繋がっている』。

それはそれは『不本意』な形で。

見ている先が、違うのに。

ジョウイは僕を置いて行こうとしていて、僕はジョウイを置いていこうとしているのに。

僕達は…………──

──それが、僕には、何故か判った。

………………それから僕は何度も倒れて、倒れる度に……って訳じゃなかったけれど、倒れると、大抵の場合、『ジョウイの夢』を『見させられて』。

色々なことを、僕は『夢』の中で知った。

褒美の代わりに、ジルさんが欲しいってジョウイがルカさんに言ったこととか。

ルカさんを何とかしようって、レオン・シルバーバーグと相談してたこととか。

ルカさんのお父さんのアガレス・ブライト──皇王様を殺すのに手を貸した時のこととか。

ハイランドにあった獣の紋章のことも、それをルカさんが使ったから、獣の紋章を抑える為に黒き刃の紋章をジョウイが使い続けたことも、分かたれた僕達の紋章を、そんな風に使い続ければ、どうなるのか……ってことも。

このまま、紋章を分け合ったままでいれば、僕達は何時か、紋章に『喰われて』死ぬんだろう……ってことも、薄々。

…………だけど……それでも、僕は。

ジョウイと僕の見ている先が違ってしまっても、ジョウイが僕を、僕がジョウイを、『置いて行こう』としている、って知ってしまっても、僕は。

盟主になるよ、そう言ったあの時のままに、あの時に得たいと思ったままの『幸せ』を追い求めていたから。

何とかなる。きっと、何とかなる。

もしも、運命って物があるんなら、運命なんて、自分の手で変えてしまえばいい。

僕達の紋章が、僕達の命を削る物でしかなくても、幸せになる為に、皆一緒に幸せになる為に、皆を癒してくれる僕の紋章は、唯のお便利アイテム……って。

そう思えていた。

そう考えていた。

………………そう思いたかっただけ、そう考えたかっただけ、なのかも知れないけれど。