……ずうっと、思ってたんだ。

誰にも、言えなかったけど。

この戦争の、シュウさんに言わせれば、『とっても大切な局面』っていう、ロックアックスのお城を攻めるってなった、あの頃も。

ずっとずっと、僕は思ってた。

どうして、こんなことになっちゃったんだろう? ……って。

ちょろっと上目遣いして、少しばかり不安そうな顔を作ると、何時だって直ぐに抱き締めてくれるカナタさんが僕の隣にはいて、僕はそんなカナタさんに、ずーっと手を伸ばし続けて、だから僕は、『それで良かった筈なのに』。

どうしてこんなことに……って、そう思うのを、あの頃になっても僕は未だ、止められなかった。

──夢を、よく見たよ。

紋章の所為で倒れちゃった時にしょっちゅう見た、ジョウイの『夢』じゃなくって。

未だ、ゲンカクじいちゃんが生きてた頃の、キャロの街での夢。

今よりも、僕もナナミもジョウイも小さくって、僕達は誰も、今みたいに『強く』なくって、じいちゃんに叱られたり誉めて貰ったりしながら毎日修行して、何時も笑い合ってた、あの頃の夢。

僕が、取り戻したいと思ってた、『幸せ』の夢。

………………カナタさんに、手を伸ばし続けても。

ナナミとジョウイの立っている場所が、僕の『対岸』なんだ、って知ってしまっても。

僕は、あの頃に戻りたかったのかも知れない。

でもね、そんな夢もね、何時しか変わった。

眠る時に僕が見る夢に出て来るのは、何時の頃からか、カナタさんばかりになった。

だから僕は……夢の中でさえ、カナタさんを求めるようになった僕は、一つだけ、決めた。

何が遭っても、後悔だけはしないようにしようって。

例え、共にゆこうねって言ってくれたカナタさんに、背中を押されるようにして進む僕の先にあるモノが、『悲劇』って呼ばれるだけの物でしかないとしても、後悔だけはしないようにしよう。

同盟軍の盟主になってからずっと、自分の意志で全てを選んで来たように、最後まで、何も彼も、自分の意志だけで選び続けよう。

その為に、例え何が遭っても、何を思っても、何時か、僕が天魁星であることの証明のような、僕の掴んでる大切なモノが、掴んだ水よりも簡単に消えて行く、そんな運命に立ち合ったとしても、僕は、ナナミの為に、『ナナミの望んだ形で在ろう』、ジョウイの望む幸せを、可能な限り形にしてみよう。

ゲンカクじいちゃんが僕にくれた、僕の、この名のように。

刹那の時だけを見詰めて、望んだ幸せの為だけに、僕は歩こう。

どうして、こうなっちゃったんだろう、そう思うことを止められなくても、僕はカナタさんに手を伸ばし続けるし、カナタさんこそを幸せにしたいと思う気持ちも、カナタさんの傍にいたい気持ちも、カナタさんと共にゆきたい気持ちも、僕にはもう、止められない。

天魁星であるが故なのか、僕が僕だからなのか、そんなことは判らないけれど、僕はもう、一時足りとも止まれないし、止まれない僕を支えてくれるのはカナタさんだけだし、止まれないカナタさんの傍にいられるのは僕だけだから。

カナタさんが見詰める彼方に──刹那を見詰める僕には見えない、遥か遠い彼方に、例え悲劇があるんだとしても。

後悔はせず。止まることもせず……………って。

────だから、ね。

本当に、悲しかったけど。

ロックアックスでジョウイと会って、平和を取り戻したいねって僕達の思いは一緒で、この大地の平和の為にって、目指す先も一緒で、だけどやっぱり、僕達の向かおうとしている先は掛け離れた『対岸』でしかないから。

戦うしかないんだって、そう悟らされた時も。

向かい合った僕達を見て、真っ青な顔になって……でも、直ぐに顔色を変えて僕達を庇ってくれたナナミが……お義姉ねえちゃんが、弓に撃たれて倒れた時も。

悲しくて、悲しくて…………ナナミが死んでしまった、そう知らされた時には、目の前が真っ暗になって、僕は倒れちゃうんじゃないかってくらい悲しくなって、胸が痛くなったけど。

僕は、止まらなかったし。カナタさん以外の人の前で、泣こうとも思わなかった。

どうして、大切な人は手の中から溢れていくんだろう、それを──何となく、答えは判っていたけど──カナタさんに問いながらも。

答えなんか判っていながらそれを問い掛けて、その癖、大切なモノは誰だって、何一つとして失いたくなんかないのにって、凄く矛盾したことも考えて。

明日から又一緒に歩こうねって言ってくれたカナタさんの言葉にホッとして、三年前、僕と同じ運命に立ち合った時、カナタさんがどうしたのか、それを尋ねて、そんなこと、遠過ぎて忘れてしまったよっていう言葉には、やっぱり、『判ってくれる』のはこの人だけなんだ、なんて……他人が聞いたらきっと、無茶苦茶って思うことまで感じて。

一晩中、僕は泣いたけど……止まらなかった。

──僕が泣くことで、僕の大切な人の一等であるカナタさんの幸せを、奪いたくなんかなかったけど。

他の人の前で泣こうなんて、どうしても思えなかったしね。

…………だって、そうでしょう?

僕とジョウイは、同盟軍の盟主とハイランドの皇王って立場にいたのに、ナナミの為だけに、戦いを『切り上げる』なんて真似を、許して貰ったんだもの。

その上、お義姉ちゃんが死んだって、泣き濡れる姿なんて見せて、大切な皆の『幸せ』、僕は奪いたくなんかなかった。

カナタさんは…………『特別』な人だから、甘えただけの話。

どうしたって、例えナナミが死んだって。

僕が止まれないってことを、カナタさんはよく判っている筈……って、僕は『知っていた』から。

『甘えられた』。カナタさん、には。