不謹慎って言われるのかも知れないけど。
あの夜僕は、唯、うきうきって浮かれてた。
ジョウストン都市同盟と、ハイランドの間で休戦条約って言うのが結ばれたって、聞かされて。
戦争は終わったんだって言われて。
これで、ナナミの待ってるキャロの街に帰れる……って。
そう思ったから、僕は浮かれてた。
──僕は、僕自身も良く覚えてないくらい小さかった頃、ゲンカクじいちゃんに拾われた孤児だったから、本当は僕が何処で生まれた子だったのか、そんなこと、もう今となっては判らないけれど。
確かにハイランドは……ハイランドの街キャロは、僕の故郷で、ナナミやジョウイと暮らしていた、大切な場所だった。
だから、戦争が多いのは嫌だなあって思ってたけど、僕は僕なりにハイランドが大好きだったから、僕にも何か出来ることがあるんなら、ってそう思って、ユニコーン少年隊に参加したんだ。
……でも、本当のことを言えば。
大袈裟に言ったら、愛国心っていう気持ちが、僕にそんなことをさせた訳じゃなくって。
ジョウイがユニコーン少年隊に入隊するって言ったから、じゃあ僕もー……って。
……このことを、僕は『誰』にも言ったことがないけど、そんな、『気楽』な気持ちだったんだ、最初は。
ユニコーン少年隊は、志願兵で出来てた、僕達みたいな子供だけの部隊だったけど……ジョウイみたいに貴族の息子は、戦争中一回はそういうトコに志願するのが、一つの決まり事みたいになってて。
ジョウイはお家の人との……折り合いって言うのかな、折り合いがあんまり良くなかったから、少し無理してでもそこに志願するってことになって。
だから、僕もー……って。
ホント、気軽なノリだったんだ。
ナナミを一人残して行くのは、それは嫌だなって思ったけど、戦場っていう所に向かって行って、そうして無事に帰って来たら、ジョウイ、一人だけ先に『大人』になっちゃうんじゃないかって、僕にはそう思えて仕方なかったから。
唯でさえジョウイは僕より年上なのに、ジョウイが『大人』になっちゃったら、僕は置いていかれちゃうんじゃないかって、不安で仕方なかったから。
だから僕も、戦争に行くって決めた。
…………置いていかれたく、なかったんだ。
あの頃の僕は、そういうことが、凄く恐かった。
それは多分、僕が孤児だったから、なんだろうと思う。
お父さんだったりお母さんだったりに、何処かに置き去りにされた、っていうような記憶が、僕の中にある訳じゃないけれど。
大切な人に置いて行かれること、そう感じること、それが僕には耐えられなかった。
戦争に行けば、逆に今度は僕がナナミを置いて行くことになっちゃうけど、ナナミは何が遭っても、キャロの街で僕達を待っていてくれるって確信が僕にはあったし、ナナミの許に帰るんだって『自信』も僕にはあったから、絶対に待っててくれるナナミに、僕は甘えることにして。
よく、近所の人に、セツナちゃんの年って、十三か十四くらいかな、って言われちゃうくらい小さい僕だったけど、ユニコーン少年隊に入隊出来るのは十五歳からって決まりがあったから、僕は十五って言い張って。
……本当の年齢なんて、僕には判らなかったし、僕は栄養失調って言うの? そういうので死ぬ寸前だった処を拾ったんだって、じいちゃん昔言ってたし、だからお前は、大きくなれないかも知れないけど、最低でも十二、三にはなっていると思うとも、亡くなる一寸前に、じいちゃん言ってたから、十五って言い張ったってばれないよねーって。
お給金だって破格だから、ナナミにお腹一杯、色々食べさせてあげられるしーって。
そうすることで、ジョウイに置いていかれないで済むんなら、それでいいや……そう思って、僕は。
でも、やっぱり、小さい頃からずーっと一緒だったナナミと離れ離れっていうのは寂しくって、実際に僕達の部隊が戦場に立つことはなかったけれど、人を殺すことは出来ればしたくないなって、僕はそう考えてたから。
戦争が終わったから、もうキャロに帰れるって、ラウド隊長に聞かされたあの夜、僕はうきうきとしながら、叱られるって判ってても、さっさと着替えて朝を待ってた。
…………あの夜、僕の運命を塗り替えてしまうあの出来事が起こるなんて、これっぽっちも考えず。