死んでしまった人はもう、還っては来ない。

──ナナミが逝ってしまって、こっそり……本当にこっそり、キャロのゲンカクじいちゃんのお墓の横にナナミを葬って──だってそこ以外に、ナナミのお墓を作りたくなんかなかったから、シュウさんに凄く無理言った──貰って。

もう二度と取り返せない何かをくしてしまったような、でも何処かで……大切な人が亡くなった時に感じてはいけない想いを知ってしまったような……。

そんな複雑な想いを抱えて、死んでしまった人は還っては来ないから、って呟き続けて、僕はルルノイエを目指した。

あの皇都に乗り込む途中、なーにを考えてたんだか知らないけど、シュウさんが、レオン・シルバーバーグに一人っきりで立ち向かう、なんて馬鹿な作戦立ててくれて、冗談じゃないっ! って、僕、怒りまくったけど、シュウさんにはルカさんがいるから、きっと大丈夫って、信じてたからね。

一寸、カナタさんとルックに迷惑掛けちゃったけど、そっちは何とか収まって、何とかしてルカさんには、自分のして来たことに対する後悔っていうのを覚えて欲しい、シュウさんにはもう少し、自分の為にって想うこと知って欲しい、っていう僕の願いも叶って、あの二人のこと、僕は気にしなくても良くなったから、「傍にいてあげるよ。最後の最後、までね。何が遇っても」って言ってくれたカナタさんと一緒に、ジョウイの許へ向かったのに。

僕は、僕の決着を付けようって、前に進んだのに。

前に僕を殺しにやって来たこともあるルシアさんや、じいちゃんの親友だった人や、クルガンさんやシードさんや、レオン・シルバーバーグ、そして、獣の紋章、その先にいる筈だったジョウイは。

…………ジョウイは……どうしようもなく冷たい玉座に、一人で座ってるんだろうって、そう思ってたジョウイは、何処にもいなかった……。

────あの時程、僕が怒ったことって、ないと思う。

ジョウイがそこにいない、ということ、それが物凄く腹立たしかった。

もしかして僕は、この土壇場で裏切られた? って。

そう感じてしまう程。

…………許せなかった。

僕はジョウイが許せなかった、あの瞬間。

だって…………だって、ね?

僕、一杯一杯、考えたんだよ。色々、一杯、考えた。

物凄く沢山の、知らなくても良かったことを知ってしまった後も。

アナベルさんを殺したのは、ジョウイ自身の意志だったのかもって、そう疑い始めた後も。

ジョウイはハイランドの将軍になっちゃったけど、もしかしたらそれは、許さないって言ったルカさんと、ハインランドっていう僕達の祖国、それを潰してしまう為にやってみせたことなのかも知れない。

僕達の見ている先も、向かおうとしている先も、川の向こう側とこちら側のようになってしまったけど、僕達が対岸に立ってしまったからって、僕達の間に流れる川の行く先は一緒で、変わらないよね。

…………僕は、そう思いたかったのに。そう、信じたかったのに。

だから、カナタさんの手を取った後も、カナタさんの手を離せなくなった後も、ずっと……ずっと僕は…………──

──────ジョウイ?

約束の地で、君が言ったように。

力が欲しいと思った。強くなりたいと思った。それさえあれば、全て守れると思った。

………それが、君の『全て』だったんだね。

それだけが、君の。

──僕達は、祖国に裏切られたよね。

大切な人を守りたいと思って、力を求めたよね。

だから君は、僕とナナミの為だけに、アナベルさんを殺して、ハイランドの将軍になったんだろうね。

でもそこで、同盟軍の盟主になった僕のように、君もやっぱり『毎日』進んだから、大切な存在──捨てられないモノが出来たんだよね。

………………それを、何故? って、僕はジョウイに言うつもりなんて、ないよ。

僕も、そうだから。

この、デュナンの大地の為に、ハイランドっていう国を選んだんだろうなってことも。

ジョウイがそう考えたって言うなら、僕はそれでいいと思うよ。

でもね……でも、ジョウイ、どうして? どうして、本当だったら、そこでこそ、僕達が決着を付けなきゃならなかったあの玉座の間に、いてくれなかったの?

……僕達には、再会を誓った場所があったよね。それは、判ってるよ。

あの場所は約束の地だから、離れ離れになったらあそこで、って、それは僕だって覚えていたよ。

だからジョウイはルルノイエから消えて、あそこに行ったんだろうね。

だけどね、ジョウイ。

最後の最後でそんなことするんなら、どうして君は、ハイランドの皇王様になんてなったの?

玉座の間、そこに僕が行くって知っていて、その手前には、君が捨てられないって言った沢山のモノがあるって知っていて。

ねえ、どうして? ジョウイ。

デュナンの大地は、二つの国が犇めき合うには狭過ぎるんじゃなかったの? だから、どちらかの国をって、そう思ったんじゃないの? 何度も君は僕に、同盟軍の盟主なんて辞めて、何処か遠くへ逃げてくれ、そう言ったんだから……デュナンを治めるのはハイランドでいいって、君はそう思ったんだって僕が考えても、間違ってないでしょう?

だからジョウイは、皇王様になったんでしょう?

僕だって盟主を辞められなかったんだもん、ジョウイが皇王様を辞められなかったこと、責めたりなんてしない。

…………判ってる、つもり……だよ? 何も彼も、『全てを守ること』、それだけがジョウイの『全て』だったんだ、って。

……………………だけどね、ジョウイ。

何度……何度、何度。

何度、ジョウイは、大切なモノの為、それだけの為に、裏切りを重ねるの? 何度、僕を置いて行けば、君は気が済むの?

大切なモノの為、唯、それだけの為に。

ジョウイの全てだった、守りたいと思った、その為に『力』さえ欲しいと思った、『大切な存在』の為に。

ジョウイ、君は一体、どれだけの人を置き去りにしたの?

………………あの時、ね。

ジョウイの、白い上着しか玉座の間になかった、あの時。

僕はそう感じて、それが酷く腹立たしくて、悲しくて。

だから、天山の峠に行こうって、そう決めた。

命を粗末にしちゃいけないよって、カナタさんに叱られて、手、引っ張られて、崩れ始めたお城の中を引き摺られながら。

再会を約束したから、その約束が胸の中にあるから、約束の地が僕を待っているから。

そういった理由で、じゃなくって。

天山の峠に、全てが始まったあの場所に行こう、って、僕はそう決めた。