何が起きているのか、僕には判らなかった。
休戦条約を結んだ筈の都市同盟が夜襲を仕掛けて来たって言われても、焼け落ちようとしている僕達の野営の有り様を、確かにこの目で見ても。
…………どうして? と。
そんなことしか、僕には思えなかった。
逃げろって……確か、ラウド隊長だったかな、に言われて、ジョウイと一緒に、夜の峠道を走って走って……でも。
おかしい、もしかしたらこの先に、敵が待ち受けているんじゃないか、だとしたら、隊長の所に戻って、それを告げた方がいい、そうジョウイが言い出したから、来た道を戻って。
なのに、戻ってみたら、そこにいたのは都市同盟の人達なんかじゃなくって、ルカさん……ハイランドの、僕達の祖国の、皇子様だった。
──ルカさんとラウド隊長が、あの時話していたこと。
戦争を続ける為に、都市同盟の手口に見せ掛けて、僕達をあんな目に遭わせたって、二人が話していたこと。
それを、僕とジョウイは確かに聞いたけれど……あの時も僕は、何を言われているのか、咄嗟には理解出来なかった。
どうして、そんなことをしなきゃならないんだろう。
どうして、戦争を続ける為だけに、僕達がこんな目に遭わなきゃならないんだろうって。
それが判らなくて。
到底、理解なんて出来なかった。
何も彼も、僕には判らなかったのに、このままでは殺されてしまう、その恐怖だけに背中を押されて、やっぱりそこから逃げ出して……天山の峠のどん詰まり、あの滝壷を見下ろせるあの場所に追い詰められちゃって。
──もしも。
もしも僕達が、離れ離れになることがあったら。
ここで、再会しよう。それを、誓おう。
そう言ったジョウイと、確かな『約束』を交わして。
僕とジョウイは飛び込んだ。
あの滝壷の中に。
一瞬だけ、ここに飛び込んで生きてられるのかなあ……? なんて、呑気に考えもしたけど、他に道なんてなかったから、ままよ……って。
……結局その後、ビクトールさんとフリックさんの二人に助けられたから、生き延びたっていう意味での結果的には、良かったんだろう。
ビクトールさんに起こされた時、へ? 熊さん……? って、ビクトールさん見て思っちゃったから、折角助かったのに熊に食べられるーって焦ったのは内緒だけど。
兎に角、僕は二人に拾って貰って、うっかり、僕はハイランドの人間でユニコーン少年隊にいました、なんて正直に言っちゃったから、都市同盟側の傭兵だった二人は、一応『は』捕虜、って形で僕を砦に連れてって、でも、これの何処が捕虜? って思っちゃうくらい親切にしてくれて。
その内、キャロに帰れる方法見付けてやるから、なんてことも言ってくれたから、いい人達だなあ……って思いながら僕は、何時かナナミにも会えるだろうって、気楽に、それなりに楽しく、あの砦で暫く過ごした。
ジョウイが僕を探して、やって来てくれるまで。
──ジョウイと再会出来てからは、随分と目まぐるしかったけれど。
親切にしてくれたのに御免なさいっ! って、砦に一寸火を付けて、抜け出して、リューベの村で出会った、アイリやリィナさんやボルガンの旅の大道芸一座に混ぜて貰って、燕北の峠越えて、キャロに帰って……。
僕の『親友の一人』だったムササビのムクムクや、大切なナナミと再会出来て、でも、何でか、僕達はユニコーン隊を襲った都市同盟のスパイってことにされちゃってて、ラウド隊長に捕まって、もう一寸で処刑されちゃうって寸前、ビクトールさんとフリックさんに又助けて貰って、傭兵砦に戻って。
滝に飛び込んだ後、ジョウイを助けてくれたっていうピリカの御両親のいるトトに行ったり、ミューズにお遣いに行ったり、何やかやって、今度はナナミとジョウイと三人で、日々を過ごしていたら。
又、ルカさんがやって来て。