「同類、か…………」

ぽつり、ルカが洩らした感想を耳にし。

ビクトールがふと、哀しそうな、遥か彼方を見詰めるような、何とも例え難い眼差しをした。

「同類……。ああ、そうだったのかもな。或る意味で、そうだったのかも知れない。でも、そうだったとしても。『あの時』、もし、ジョウイが思い詰めた何かを止めることが出来ていたら、歴史はこうはならなかったかも知れない……ってな。そう思う夜も、たまにはあるな……」

室内の、有らぬ方向を見詰めたまま、ビクトールがそう言うから。

「…………ビクトール、あのさ………」

「ん?」

「……いや、何でもない……」

「何だよ、カナタ。珍しく言い淀みやがって」

「本当に、何でもない。……御免」

カナタは傭兵相手に何かを言い掛け、が、言葉を飲み込み、曖昧に微笑み。

「まあ……でも、それも又、ジョウイ君自身が選んだ選択で、同様に、セツナは、同盟軍の盟主って道を選んだ訳だし……。何事も、それぞれの『道』だよ、多分」

らしくないな、と豪快に笑ったビクトールに向け、静かに言った。

────恐らく彼は、その時。

『溺愛』している少年から聞き出した、アナベルの死の真相──男女の関係になっていたかも知れない、ビクトールが昔から憎からず思っていた女性が、本当は一体誰に殺されたのか、それを知っているのか、尋ねようとしたのだろう。

……いいや、もしかしたら。

ビクトールのアナベルに対する、アナベルのビクトールに対する、それぞれの想いを彼は知っているから──どうやって知ったのかは兎も角──、もしもビクトールがそれを知らないと言うなら、いっそ……と、そうまで思ったのかも知れないが。

結局カナタは、何も言葉にはせず。

「道、か…………」

「そう、道。例えばね、シュウ。貴方が、同盟軍の正軍師になると決めたのも。それが結果的に、貴方にとって良いことだったのか、悪いことだったのか、それは二の次って奴で。それを決めたのは貴方で、今ここで、こうしているのも貴方だ。…………でも、良かったんじゃないの? 貴方の場合はね。聞いた処によれば、何処かの誰かさんとの『始まり』は中々、大変だったらしいけど? 最終的には、収まる所に収まったみたいだし」

今度は呟きを洩らしたシュウの方へ向き直って、彼はからかいを口にした。

「それは、その………。まあ、そうなのかも……知れません、が……」

「照れることじゃないだろう。今更、今更。そんな風に、らしくなく言い淀むと、セツナにからかわれるよ」

にやりと意地の悪い笑い方をして、戦争中の頃に比べれば遥かに感情を窺わせるようになった正軍師をからかったら、照れたような、困ったような、益々からかいの衝動を煽る態度をシュウが取ったので、カナタは更に、底意地の悪い言い方をして。

「それくらいにしといてやれよ、カナタ……」

楽しい玩具を見付けた調子になったカナタを、フリックが制し。

「……っとに、お前にしても、セツナにしても…………。──出会ったばかりの頃も、シュウに言われて盟主を引き受けたあの頃も、セツナの奴はもっと、素直で可愛い、愛くるしい奴だって、俺はそう思ってたのに……。元々の素質か、気が付けば、お前みたいにあっちこっちで、大人をからかって遊ぶような奴になっちまって……。きっと、お前の悪影響を受けたんだろうな……」

確かに、このやり取りをセツナが聞いていたら、勇んでシュウをからかうだろうな、と感じた彼は、今は城の最上階で眠っているだろうセツナを思い、脳裏にてセツナとカナタを比べ、しみじみ、溜息を零した。

「………………フリック、いい度胸だよね。制裁、受けたい?」

だからカナタは。

何処からどう聞いても誠に失礼な思いを、うっかり吐露した青雷を、鋭い視線で射抜いた。