「……………………でもですね」

「……何」

「うっすい壁一枚より尚酷い、衝立一枚だけ隔てた向こう側にシエラ様が寝ている部屋で、っていうのは、純粋に、僕、嫌です」

「だから。君が声、我慢すればいいだけの話」

「……良く言いますねー、そんなこと。いけしゃあしゃあと」

「僕は自分に、素直なだけ」

互いの『それ』で、濃く唇が濡れる程に深い接吻を交わして後。

ム……とセツナは、恥を知るが故の拒否を告げたが、カナタはやはり、取り合わず。

「羞恥心の持ち合わせって、あります?」

「あるってば、それくらい」

「だったら、止めません?」

「嫌」

────カナタさんっ! カナタさんってばーーーーっ! 嫌だって言ってるのにぃぃぃぃっ!」

「騒ぐとホントに、彼女、起きるよ?」

「いっそ起きて来られて、うるさいって叱られた方が何倍もマシですっっ! カ………────

彼は、降らせたキスの雨で、セツナの喚きを塞ぎ。

存分にはだけさせた夜着を、さらりと床の上へ捨てて、指先にて、肌の上を辿り出した。

「ん……。…………カ……ナタさん……の……恥、知らずっっ……」

何時しか離れてしまったカナタの唇を、名残惜しそうに眼差しで見送り、吐息と共に上がる声を懸命に堪えながら、セツナは切れ切れに、悪態を付く。

「もっと、恥知らずなこと、して欲しい?」

「…………そ、じゃなく……って……っっ……。あ…………。……ヤ、だ……。声、出ちゃ…………」

吐かれた悪態にカナタより返されたのは、それを物ともしていない台詞で、苦し気にセツナは、唯、息を詰めた。

躰中、至る所で、微かな痛みを伴う愛撫が沸き上がる所為で。

どうしても、喉の奥から、嬌声が洩れた。

──胸許に乗ったカナタの指は、男の身には何の用も為さない小さな膨らみを摘まみ上げて来る。

肌を吸われる、僅かな痛みと疼きは、至る所に施され続ける。

だから、無意識に溢れる艶やかな声を、堪え切ることなどセツナには叶わなく。

キッ……と彼は、唇を強く、噛み締めた。

噛み締めたそこから、生温い血が溢れ出て、唇を染め上げるまでも、耐えよう、と、そう思ったが故の行為だったのに。

それを見咎めたカナタの施す行為が激しさを増したから、呆気無く噛み締めは解かれて、セツナの高い声が、室内には響いた。

………………一度ひとたび、それを放ってしまったら。

もうそれを、セツナに止めることは出来なかった。

されるがまま、カナタの施しを、全て受け止めて。

両腕を伸ばし、愛しい人に縋り付いて。

何処か、遠い所で、薬瓶を開けた、ガラスの触れ合う音聞こえても。

そこから掬い上げたのだろう冷たい滑りの乗った、カナタの指先に、『奥』を開かれても。

セツナはひたすらに、カナタの望む姿だけを、恋人の、漆黒の瞳の前に晒して。

「……カナタ……さんっ……」

「…………ん?」

「おねが……いっ。…………早……く……っ……」

己さえも知り得ぬ、『奥』をも知り尽くした人に、仰け反るしかない最奥の一点を弄ばれ続けて、とうとう。

彼は、懇願を口にした。

「……欲しい?」

すればカナタは、ゆるり、と、微かに笑みながらセツナを見下ろし。

問い掛けに、こくりと彼が、頷くのを待って。

「望むだけ、あげる」

セツナの耳元で、妖艶に囁いて、カナタは、セツナの小柄な躰を引き寄せ、『抱いた』。