「……も……っ……。カナタ、さんっ……っ。……も、許しっ……」
──何も彼もを、知り尽くしているくせに。
辿り着ける場所を探しているような蠢きへと変わったカナタの愛撫は、終わりが見えず。
背を撓らせたままセツナは、泣きそうな声を絞った。
どう足掻いた処で、カナタにも察せられてしまう程、恥知らずなまでに、『欲』は擡げているのに。
恋人は、慰めてもくれず。
奥を辿る指は、執拗なくせに緩慢で。
なのに、『足りない』、と。
含ませられる指の数は、一つ二つ……と増え続け。
「カナタ……さんっ……のっ……根性…………悪っ…………っ」
引き攣らせてしまった爪先が、血の糸を引くのにも気付かず。
その腕に力込めつつ、セツナは、精一杯の悪態を吐いた。
「……そうかもね」
けれど。
詰ってやったカナタから返されたものは、クスリ……、そんなトーンの忍び笑いと。
意地の悪さだけが深まった、蠢きで。
「……欲しい?」
何故か、抑揚なく響いた、その問いに。
「欲し……い……っ……」
セツナは、もう、従順に答えるしか出来なかった。
「……ん。……僕も、セツナが欲しいよ……。……だから、御免ね? セツナ……。我慢、出来そうに、ない……」
促せば、促されるまま。
求めれば、求められるまま。
全てのことを、素直に受け止めるようになったセツナへ、カナタはその時、詫びを告げ。
もう、堪えられない、と。
ふっ……とセツナの躰を浮かせ。
奥へと続く窄まりに、恋人のみを求めて止まない、自身の欲を宛てがい。
「……え……? ……あ……。────んっっっ………」
苦痛を覚えるだろうセツナに、心底詫びながら。
詰まる悲鳴を、耳朶の奥へと収めつつ。
カナタは自身を、セツナへと穿った。
「ひっ……。っつ……。は……あっ……」
喘ぎなのか、悲鳴なのか。
何れとも付かない声が、己が腕の中より上がっても。
彼は行為を止めず。
己の全てを、恋人に与え切ってしまう。
「………………セツナ……」
────上がる声は恐らく、嬌声、と言うよりは、悲鳴で。
セツナの面が歪められたのも恐らく、快楽故ではなく、痛み故で。
女のように、自ら濡れる訳でもない躰を、滑りの足りぬまま押し開いてしまったことに、罪悪を感じながらもカナタは。
甘く、溶けるように、恋人の名を音にした。
「んっ………。んんんっ……」
────ひたすらに優しく、セツナの名を呼んでも、応えは返って来なかった。
唯、何かを堪えているように、何かに悶えているように。
喉の鳴る音だけが、セツナからは聞こえた。
しかし、程なく。
『己』を飲み込ませたセツナの奥の入口は、ぴくり、と震え出して。
セツナの中で、心の臓と同じ早さで脈打つカナタの『欲』に、セツナの襞は蠢き、絡まり。
与えてしまった痛みではなく、悦楽を、セツナが求め始めたことを知り。
カナタは、唯、大切なモノを掻き抱く仕種で恋人を抱き。
セツナの胸に、頬を埋めた。
「…………カナタ……さん…………?」
己を『裂く』だけ裂いて、蠢きを止めてしまった恋人へ、息を上げつつセツナは訝しみを放ったけれど。
彼は、微かにしか、蠢かなかった。
裂くように押し入った、セツナの中が。
余りにも暖かくて、熱くて。
こうしていられるならば、と。
そんなことだけを思わせられて。
「……幸せだと……思うよ…………」
ぽつり、カナタは呟いた。
「何時までも、こうしていられたら……。君と、結び合っていられたら……。僕はどれ程、幸せだろう……。永遠、こうしていたいと思うよ……。────このまま……刻が止まればいいのに…………」
「カナタさ…………──」
「──このまま。全てが止まれば、いいのにね……セツナ…………。このまま、全てが終わって。君だけを、感じていられたなら。幸せ、なのにね…………」
…………ぽつり、ぽつりと呟き。
ゆるりと、セツナの胸より頬を擡げるや否や、噛み付くような接吻を、恋人へと与え。
「幸せ、なのにね……」
洞穴を覆う、乾いた土の上に落とした、薄い毛布の上へ。
身を結び合ったままカナタは、セツナの背を押し付け。
「愛してるよ、セツナ。愛してる。……君がいてくれれば、僕は………………──」
彼は、愛だけを囁き。
セツナと自身の指先を絡め、唇を触れ合わせながら、望もうと、刻は止まらぬ、とでもいう風に、恋人を、高みへと押し上げ始めた。
────消えてしまったのか、それとも、聞こえなくなってしまったのか。
何時しか、宵の彼方より響いていた春雷も、パチパチと、激しく爆ぜていた薪の音も、喪失してしまった世界の中で。
刻が止まらぬ限り、やがてはやって来る、高みへ、と。