「丁度、百年、経ったね」

会話が途切れ、暫く続いた沈黙の後。

眺めていた夕日から眼差しを逸らして、セツナへとカナタは向き直った。

「…………はい。丁度、百年、です。僕達が、バナーの村で出逢って、この街で、カナタさんに、『共にゆこうね』って言って貰った日から数えて、丁度、百年」

向き直ったカナタの視線を真直ぐ捕らえ、セツナも又、言った。

「もう。……もう、僕は、待たなくてもいいのかな? セツナ。数年前、君自身が言ったように、百年目の約束の日を僕等は迎えたから。だから、もう、僕は待たなくてもいいのかな……?」

セツナの両肩へ、抱き込むように腕を廻し、カナタは、少しばかり「うっ」という顔付きになったセツナに、忍び笑いながら問い質した。

「えーーーーーーと。その、ですね」

「もう少し、待たなきゃ駄目? 未だ君は、僕が恐い? 未だ、何時か僕に捨てられるんじゃないか、なんて、馬鹿なこと考えて、一人怯えてる? ……有り得ないんだけどね、そんなこと」

「いえ、その…………。あの、ですね……。もう、だいじょぶ、なんですけど………うー…………」

あ、来た。

……そんな表情をしながらも、内心ではその内、カナタがそれを言い出すだろうと覚悟していたセツナは、これ以上待たせる訳ではないけれど、と言いながらも、軽く唇を噛み締め、抱き寄せられたが為に、そこに顔を埋める格好になったカナタの胸の中で、困ったように俯いた。

──百年前の、あの戦いの頃より。

カナタがセツナを『溺愛』して止まないのは、それはそれは有名な話だった。

彼の溺愛が、如何なる感情に根ざしているのか、それを正確に知る者は、当人以外に存在していなかったけれど。

如何なる意味合いであろうとも、カナタはセツナを可愛がっていて、大切にしていて、手が付けられぬ程に甘やかす、というのを、同盟軍の中で知らぬ者はいなかった。

その『溺愛』が、過剰過ぎるそれであるのも、全ての人々が認めていた。

──セツナも又、カナタを慕って止まなかった。

マクドールさんは僕の一等、と宣言することも、セツナは躊躇わなかった。

何時でも何処でも、マクドールさん、と、彼がカナタに懐いているのを、あの城の者は皆、知り過ぎる程に知っていた。

故に、かどうかは知らぬが、そんな二人の仲は、異常過ぎる程に良く。

時に、あの二人は本当は、道ならぬ恋に堕ちているのではないか、そんな噂がまことしやかに語られる程、可能な限り彼等は共に在った。

尤も、呪われた、魂喰らいの紋章を宿したカナタと、齢十五、という推定すら怪しい、同じ年頃の者達と比べると、とても幼く感じるセツナが、本当に、道ならぬ恋とやらに燃えていると信じる者は皆無で。

微笑ましい兄弟愛が、似たような境遇だった所為で行き過ぎてしまったのだろう程度だと、人々は受け止めていた。

けれど、カナタがセツナに注いでいた、『溺愛』と云うそれは、人々が面白可笑しく噂した、『そういう行為』さえ求める感情に根ざすもので。

その彼の想いは、もう一人の当事者セツナでさえ、長らく気付くことなかった──否、公平に語るなら、気付かぬ振りをセツナはしていた、と言うのが正しい──、それはそれは秘められた想いだったけれど。

カナタは、セツナに対する恋慕の情を、長きに亘り携え続け。

五十年前、最果ての南の国の片隅で、想いを告げて、接吻くちづけを乞う、と云う行為に彼は及び。

それより更に五十年。

百年目の、今日という日までカナタは、五十年もの間、身をも結び合いたい、とセツナを『口説き』続けて来たのだけれど。

セツナが、うん、と、首を縦に振ることはなく。