この人は一体何時から、『熱』ばかりを求めるようになったのだろう。

『熱』を求められることは……決して、嫌なことではない……と思う。

この人の指先には、『始まり』の時と同じ、優しさも、愛しさも、込められている。

大切にされているのは………とても、良く判る。

けれど。

この、『熱』の中に。

確かに愛しさはあって……そして、愛しさはない。

──百年前に出逢った。

百年の年月を、共に過ごして来た。

──五十年目に、キスを交わした。

百年目に、躰を重ねた。

古き百年が流れ、泡沫の境目をやり過ごして、新しき百年を迎えた。

……この百年、この人は、何一つとして、移ろわせなかった。

優しさも、温もりも、愛しさも、何も彼も。

この人が変えることはなかった。

なのに。

…………新しき百年が始まって、確か未だ……そう……数年と、過ぎてはいないのに。

なのに、この人は、どうして。

『熱』ばかりを求めるようになったのだろう。

確かに愛しさはそこにあり、そして、確かに愛しさがそこにはない、『熱』ばかりを。

────それを、どうして、と、問おうとは思わない。

知っていたのだから。

こうなるだろうと、『始まり』の時から、知っていたのだから。

それを、甘んじて受け入れたのは自分。

こうなると知っていて、受け止めたのは自分。

この人の傍にいられるなら、それで良かった。

それだけで、良かった。

この人が、『痛くない』と言うなら、それだけで。

……この人は、何も悪くない。

悪くなんてない。

この人が犯した罪は、たった一つ。

百年前のあの日、黄金の都で『魔法の呪文』を唱えた、それだけ。

全てを選んだのは、僕で。

全てを望んだのは、僕で。

だから。

この人は、何にも、悪くなんて、ないのに。

どうして、僕の瞳からは。

涙なんか、溢れるんだろう。