押し付けるようにして…………いいや、押し付けられるようにして、頬を埋めた白いシーツを強く握った右手に、ふっ……と、冷たい指先が添えられた時。
「カナ……タ……さんっ……っ……。──あっ……」
セツナは、呻き声にも聞こえる、嬌声を放った。
「……ん?」
哀願しているような響きも篭ったその声音を耳にして、カナタ・マクドールは、幸せそうに眼差しを細め、背中側より責め立てているセツナの躰を、一層煽る。
「やっ…………。もう、やだっ…………──」
空惚けている風なカナタの問い掛けに、セツナがくしゃりと顔を歪めて、益々強く、シーツを握り込めば、セツナの指先に絡まったカナタのそれは、瑞々しい蔦のように、深く強く、絡まりを増し。
「やだ、なんて言わないで……。ね? セツナ。…………愛してる、よ……」
その一夜の安らぎを求めた、宿の客室のベッドに、跪かせて前のめりに折り曲げた姿勢を取らせたセツナの腰辺りに左腕を添え。
カナタは、達した先にある、世界、を求め始めた。
「……御免ね、一寸、酷くしちゃったかも」
──熱に浮かされるような、行為が終わって。
シーツの上へと崩れ落ちたセツナが、暫しの間放心した後、漸く、もぞもぞと動き出したのを受けて、反省の余地あり、そんな顔を作ってカナタは、御免ね、と苦笑いをしてみせた。
「…………酷く……って言うか……。……あー、でも。だいじょぶ、ですよ…………」
故にセツナは一瞬、「謝られても……」、そんな顔付きになったけれど、あは……と微かに笑って、使い物にならなくなったシーツを手繰り寄せ、生まれたままの姿を晒している己が身に巻き付け、体を庇うように立ち上がった。
「でも、ですね……。出来ればもー少し、その……時と場合っていうのが、考慮されてるといいなー、と思わなくはないですよー……。何も部屋に入るなり、押し倒さなくったっていいじゃないですかー……」
一寸、お風呂使って来ます、とぼそぼそ洩らしながら、立ち上がった彼は力なく、せめてこれだけは言ってやる、とでもいう風に、苦情だけは口にした。
「御免、ってば。君が可愛かったから、つい」
よたよたと歩き出したセツナの背中に、「一人で平気?」と声を掛けながらカナタは、悪びれた様子もなく、しれっと言った。
「又、それですか……。まあ、いいんですけどー……。──お風呂、お先ですー」
「…………あ、一緒に入る?」
「……ヤです」
「つれないねえ」
「結果が目に見えてること、今は僕、したくないです」
この成りゆきに関する『責任』の所在が己にあるのだと、果たして判っているのだろうかと、問いたくなる素振りのまま、壁伝いに狭い室内を歩いて行くセツナを、乱れたままのベッドに座ったカナタがからかえば、セツナはきっぱりと、拒否を返し。
シーツを引き摺る、ズルズル、という音と、床の上を素足で歩く、ペタペタ、という音を交互に立てながら、その客室の、小さな内風呂へと消えた。
「お風呂の中で、って思う程、僕も元気じゃないんだけどね」
そんなセツナの小柄な体が、浴室の扉を潜るまでを見送って、やれやれ、と肩を竦め。
カナタは、何処までも幸せそうに、クスリ、微笑んだ。