百年の年月を掛けた。
百年、待たずとも、実際の処、構いはしなかったけれど。
結局百年、その身の全てで僕を受け入れることを、セツナが拒み続けたから。
誰に促されるでもなく、セツナが僕へ、「愛してる」と囁いてくれるまで、百年必要だったから。
……セツナが『自ら』、「愛している」と囁いてくれたなら、例え、あの頃の僕達を知る誰が生き残っていても、構いはしなかったのに。
そうは、ならなかったから。
──百年の年月を掛けた。
セツナをこの手にする為に、それだけ月日を費やした。
親友を討ち滅ぼせば、セツナは不老となる、その、不幸な事実に喜びを見い出し。
大切な人々の幸せの為に、──そんな彼の想いを後押しして、追い詰め。
彼が自らの足で、僕の許へとやって来るのを待ち侘び。
逝ってしまった、彼の大切な人々の記憶さえ、彼の中から消えることを望み。
大切だった親友との、満月の思い出さえも、接吻を与えて奪って。
愛している、と嘯くくせに、最愛の人とは看做さぬ僕に、何時か捨てられるのではないか、と怯える彼を、厭らしい『残り香』で切羽詰まらせ。
そうして僕は、セツナを抱いた。
──愛されているようで、その実、『愛されてはいない』ということ。
僕が真実望む、僕とセツナの『形』。
その、全てを知りながら。
全てを解っていながら。
それでも、想いに、恐怖に、こっそりと蓋をして、傍にいて下さいね? ……と。
『僕が望んでいるから。僕が傍にいて欲しいから。「だから」、傍にいますね』……そう言うセツナを。
『この道』を望んだのは、自分自身なのだと言い張るセツナを。
僕は抱いた。
────セツナが、本当の意味で、僕を受け入れようとはしないまま。
僕の、『こんな形』を、あの頃の僕達を良く知る者……例えば、ビクトールだったり、フリックだったり……と言った、何時でもどんな時でも、僕達のことに心砕いてくれた『皆』が知ったら恐らく……そう思ったから、『皆』がこの世から消えるのを待って。
どれ程歪な『形』を取ろうとも、僕達に口を挟む者のいない、セツナ自身が、その身の全てで僕を受け入れる覚悟を決め終えた、あれから百年後の世界で。
僕は、彼を。
『征服』してしまいたかった。
だから僕は、セツナを抱いた。
最愛の人…………例えば、恋人、という言葉で表現出来るような、甘やかな者としてではなく。
僕だけのタカラモノとして、僕はセツナを征服してしまいたかった。
セツナ自身にすら触れること叶わぬ、彼の奥の奥までも、僕だけのモノだ、と。
そう示す為に、僕は彼を『従えて』しまいたかった。
逃さぬように。
永遠、僕の掌
何も彼もを蹂躙して、僕のモノだと知らしめたかった。
僕だけのタカラモノに、所有者である僕自身が、何を与えてやったとしても、それは僕の自由だ……と。
僕自身に言い聞かせて。
──────それだけで、良かった。
その為だけに僕は、百年の年月を掛けた。
人として、ではなく。
タダのモノ……最愛のモノとして、彼を手に入れられれば。
……何時か、潮の香りのする街にて、彼さえいてくれれば、永劫立ち続ける、この『高み』の色さえも変わる、と僕は知ったから。
トランの大地を、血に染めながら駆け抜けていたあの頃。
大切だった人達を失ってしまった際……果たして僕が泣いたのか、そうではなかったのか……たった三年の間に、そんなことすら見失ってしまった僕に、泣ける、ということを思い出させてくれたセツナが、僕の掌の中にあれば。
僕はそれで、良かった。
例え、僕だけの灯火が持ち得る、温もり、というものを。
冷たい僕の掌が、感じ取ること出来なくとも。
僕はそれで良かった。
…………唯。
遥か遠い彼方を見据える為だけに……その為、だけに。
百年の歳月を、僕はそうして。
……なのに、何故だろう?
古き百年を、過去として流した今。
僕には、『幻影』が視えるようになった。
僕を『苦しめる』、懐かしい幻影、が。
…………何故、だろう。
古き百年は、確かに過去として流れ。
泡沫を、僕はやり過ごしたのに。
涙を流したい……と。
そう想うのは、何故なのだろう。
視え始めた、懐かしい幻影を見て。
セツナを、見て。
──僕の立ち続ける『高み』。
そこは、まほろばに等しい。
なのに。
セツナを『愛さない』、この僕の『形』が。
罪体に思えて仕方ないのは、何故なのだろう。
僕はセツナを伴い、まほろばの高みに、立ち続けるのに。
確かに僕は、今。
『幸せ』、なのに。